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第15話

 今朝電車の中であの花の写真を送ったのに。謝罪の言葉も添えて。  一体何回謝れば許してもらえるのだ。  新しい恋人でも出来たのか……と妄想にはまりかけたところにメッセージの着信が鳴った。  思わず顔がほころぶ。  だが届いたのは、山川の爺様からのメッセージだった。  ぎょっとしてスマホをテーブルに落としてしまう。  ごとんと異様に大きな音がする。  先日葬式でその身を焼かれたはずの山川爺様があの世からLINEでメッセージを⁉  きょろきょろ辺りを見回すが、都心に近いこのサービスエリアは仕事帰りの人々が多いらしくサラリーマンやトラック運転手が夕食をとっているばかりである。  オカルトとは程遠い日常風景である。 〈山川奈保美です。祖父のスマホを使っています〉  ほっと肩を落とす。山川の爺様の孫娘、奈保美からである。 〈先日はご多忙なところ葬儀にご参列いただきありがとうございました。 また診察していただいたのに、兄が失礼なことを言って申し訳ありませんでした〉  うんうんと一人で頷いてしまう。 〈今、電話で話せますか?〉  問われてOKスタンプを送る。  食堂の返却口にうどんの残った丼を返して建物の外に出る。  すっかり日は落ちて外気は少しく肌寒い。  駐車場には人影も少なく街灯ばかりが白く光っている。  直己はこちらから電話をかけてしまう。 「ああ、喬木」  奈保美に言われて、いきなり高校生の頃に戻る。  二人が高校生だった頃はまだスマートフォンはなかった。二つ折りタイプの携帯電話いわゆるガラケーを使っていた。  交際を始めてからよく電話で話したものである。  実のところ直己は男女交際の基本だからと半ば義務感で電話をかけていたのだ。  それでも奈保美とは話が合って楽しかった。  今回の電話は牧田産婦人科クリニックに検診に出かけた報告だった。  診断の結果、子宮筋腫で子宮全摘手術を勧められたという。  セカンドオピニオンを求められても、 「僕は婦人科は専門じゃないから」  と寺で言ったことと同じような前置きをした。 「触った時かなり大きな腫瘍のような気はしてた。  担当の先生がそうおっしゃるなら全摘が望ましいんだろうな。  ただ……奈保美が子供を望んでるなら話はまた別だけど……」 「それなんだよね」  打てば響くように答えが返って来るのに、悩みはそれだったかと察する。  奈保美には二年ほど前から交際している男性がいるが、これまで結婚や子供のことなど話したこともないという。  自分自身でも考えていなかったと。  

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