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第17話
引き戸が中から開けられた。
「お帰りなさい。ごめん。鍵かけないでいた」
と出迎えたのは五分刈り頭の華奢な身体だった。
いつものザックが式台に投げ出してある。靴箱に対峙して花を見つめていたらしい。
「これ……結婚式のブーケだよね?」
指差すのは益子焼の壺に生けられた花である。
直己はと言えば、玄関扉を開け放ったまま呆然と松吉の姿を見つめるばかりである。
「ごめんね。ずっとスマホ切ってたんだ」
「ずっと……寄席にいたのか?」
「ううん。病院にいたんだ。
師匠に言われて、入院してる音羽さんのお手伝いをしてた」
「な、何で松吉が……?」
「だって音羽源蔵さんと松吉さんて父子二人暮らしだったんだよ。
二人とも入院しちゃったら世話する人がいないじゃん」
「だからって……何で松吉が……?」
直己はようやく玄関内に足を踏み入れ引き戸を閉めた。
「そこが師匠の漢気ってやつだよ。
それでなくても師匠のファンが間違えて病院に来ちゃって迷惑かけたし」
松吉も靴箱から目を放して、玄関の鍵を掛ける。
引き戸を背にした直己の脇の下から手を伸ばして鍵を掛けたのだ。殆ど抱き合うような形である。
「今日やっと親戚の人が来たから、任せて帰って来た」
と言いながら松吉は直己にぎゅっと抱き着く。もちろん強く抱き返して二人は一つの影になっていた。
松吉の五分刈りの頭を肩に押し付け撫で回す。
ちりちりと掌に触れる短い髪の感触が嬉しく、松吉の身体から若草のような香りがするのも懐かしい。
その至福に一人笑み崩れてしまう。
松吉は直己の首っ玉に両手を掛けると唇を寄せて来る。
うふふと笑いながら唇の隙間からちろりと舌を差し入れられる。
それを強く吸い、我慢できずに松吉の服の裾から手を差し入れて肌を愛撫する直己である。
もはや「ごめん」も「いいよ」も重ねた唇の中に消えて行き、互いに両手で身体を貪るばかりである。
「ここで……」と言いながら松吉は直己のネクタイを緩めている。
襟のボタンを一つずつゆっくり外すと、満を持してワイシャツの前を開いて剥く。
そしてアンダーシャツの中にもぐり込んで肌に舌を這わせた。
「あっ」と直己が声を上げたのは肌を強く噛まれたからである。
外からは見えない位置に愛咬を残された。
そう思えば逸物はいよいよ昂る。
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