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第18話
「ね……あの時の、歯形……まだ、ん……残ってる?」
電話の向こうで松吉は既に喘いでいる。
あの時、直己は玄関灯を消したのだ。松吉のいがぐり頭を撫で回しながら。
外も内も真っ暗だった。誰かに覗かれる心配もない。
「はっ」と息が漏れてしまうのは直己のアンダーシャツを捲り上げた松吉が、尖った乳首に歯を立てたからである。
二人とも既に苦しいまでに喘いでいた。
直己は玄関先に立ったまま松吉の身体を靴箱に押し付けて心行くまで愛撫した。
チノパンも下着もずらして双丘の奥にも愛撫を加える。
「やン」と少しく身をよじる松吉が愛おしい。
華奢なのに筋肉質な若者の滑らかな肌を手で口で存分に堪能した。
気がつけば暗い玄関内は花の香りに満ちている。
直己には知る由もない花の名はバラ、カサブランカ、カスミソウなどである。
「花のいい匂いがして……いつもより興奮したな……」
ごくりと生唾を飲み込んで言う。
電話でなければ松吉と舌を絡ませているものを。
着衣を乱して逸物ばかりを互いに寄せ合い握っては激しくこすり合わせたのだ。
〝兜合わせ〟と無骨な呼び名は見守る花々にそぐわない。
「ね……また、会えない時……んッ、電話で……ふ、二人で……」
と目を覗き込まれて直己は目を逸らしていた。
何を言ってるんだこいつは?
そう思ったのだ。
あの時は。
けれど翌日には松吉は師匠と共に北海道巡業に旅立っていた。
玄関の花も枯れ清川さんに撤収されてしまう。
残っているのは益子焼の壺ばかりである。
直己の胸にはうっすらと赤黒い歯形が残っていた。松吉が噛んだ痕である。
寂しさのあまり夜中に電話をかけたのは直己からだった。
二人して電話越しにあの夜の営みを再現している。
直己は今や青黒くなっている愛咬を指で撫でさすり、すぐ横にある乳首にも触れてみる。
あの時松吉は歯でやわやわと噛んだのだ。
「あ……」
息と共に声が出てしまうのを堪えたところ、
「ねえ、声出してよ……梅吉。感じてる? いい?」
すかさず電話の向こうで言って来る。
今、直己のものを激しく愛撫しているのは黄金の右手ではなく、松吉の手なのだ。
そう思えば、
「い、いい……松、松吉、あっ、あんっ……か、感じる……」
あり得ないほどに甲高い嬌声を上げてしまう。
淫乱な我が声が更に興奮を掻き立てる。
暗闇で花の香りの中、二人して靴箱に寄りかかり身体を密着させて動いていた。
激しく繰り返す動きに中心部は熱く濡れて、寄り添ったそれを握る手はにちゃにちゃ淫猥な音をたてている。
闇に響く二人の吐息はまるで輪唱のようだった。
やがて松吉は直己の背中に強く爪を立てたのだ。
「……いッ、く。んんッ!」
と雄々しく身震いをする。
腹部に熱い物を感じて、直己もまたその身を震わせてしまったのだ。
会えない時間が長過ぎて凝縮された愛である。
言葉にならない思いの丈を、同じく松吉の腹にぶちまける。
果てた後も薄闇で、二人は抱き合ったまま喘いでいた。
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