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第6話
今日も太陽が昇ってくる前にルークは目を覚ました。初めて身体が軽い感覚を覚えている。
職場へと向かう途中に見えたのは、国を囲んだ壁。レイナルドを中心に作らされた奴隷を逃げられなくする為の壁。壁がある限り、この国にいる限り、自分達に自由はない。いつかあの壁が壊される時があるのだろうか。壁の向こう側へと飛んでいく鳥を眺めた後、職場に向かった。
真っ白な部屋でマテオとルークは昨日のことは、なかったかのように無言が続いた。ハンマーが石を割る音以外聞こえてこない。その沈黙を破ったのは、意外にもルークの方だった。
コトリとハンマーを机に置いてマテオの方を向いた。マテオがルークの番号を呼ぶのを遮る形で話始める。
「ボクを助けてくれてありがとうございます」
「……そのことですか。気にしないでください。私は私の意思を尊重しただけですし、本来は褒められたことじゃありません」
「それでも、キミの行動はボクを助けた。だから、お礼が言いたいのです」
深々とお辞儀をするルークに対して、マテオの表情は変わることはなかった。
「これはボクのワガママです。聞き流してくれても構いません」
「……なんでしょう」
「ボクと友達になってください」
ルークの発言に予想していなかったマテオは目を大きく見開いた。またしても二人の間に沈黙が流れることとなる。戸惑いを隠すように、マテオは咳払いをする。
「すみません。どうして私と友達になりたいのか理由を聞いていいでしょうか。昨日にことでなら、私は私の信念に従っただけのことですので」
「……今までの監視役とは違うから。今までの監視役なら帽子を拾っても、お礼を言わない。倒れた時点で破棄する。なんなら、気まぐれで殴る人もいた。だけどキミはそんなことをしなかった。立場が違うはずなのに、ボクを尊重してくれた。初めてだったんだ」
ルークの言葉を聞いて今までされてきたことを思うと、マテオは胸が締め付けられる感覚に陥る。先輩達からは彼らについてを聞いていた。だから、予想はできないわけではなかったが、改めて当事者に伝えられると苦しくなる。彼らの犠牲でこの国は成りたっているのだと再確認させられる。
「ボク、もう同年代はいないんだ。みんな発掘行き奴隷か、息を引き取ったから。お願いします。ボクと友達になってください」
ルークは頭を上げずに、内に秘めていた思いをマテオにぶつけた。マテオは少し考える。
「考えさせてください。私は貴方のことを知らない。だから、仕事中の一時間話し合いの時間にしましょう。期限は一週間とします」
「ありがとうございます」
否定されなかった喜ぶから思わずルークは顔を上げて、笑みをみせた。マテオは眩しそうに目を細めるが、ルークは気付いてなかった。とはいえ、仕事はしなければいけないので、ハンマーを持って魔石を割り始める。
「監視役さんは、どんな趣味がありますか。ボクは食べることと、寝ることと、世界を知ることが趣味です。でも、壁の向こう側については何も知らないから、空想で想像してます」
「私の趣味は読書と訓練ですよ。読書は六百九と同じように世界を知れる喜びを感じられるから。訓練は努力すればするほどに、自分の為になるので楽しいです」
「監視役さんと共通の趣味が見つかって嬉しいです。じゃあ、好きな食べ物はなんですか。ボクはレイアの作ってくれる野菜スープが好きです。心が落ち着きます」
「私は母が作る兎の煮込みシチューが好きですよ。母の得意料理なんです」
それから仕事が終わりまで二人は会話をし続けた。
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