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第3話 奇跡みたいなできごと
バレンタインの日から数週間が経ち家族、友人へのチョコ配りが終わって暇ができた頃、修也と映画を見ることになった。
マイナー作品の映画化発表から今日まで心を躍らせてきた。
それに修也と出掛けられるのが嬉しくてさらにテンションが上がってしまう。
上がりすぎて変な行動をしないように気をつけよう。
家が隣同士なのもあり、修也の家の前で待っていると修也が出てきた。
「久、おはよー…ってなんかにやにやしてんな笑」
「えっ…そうか?映画楽しみすぎてニヤけてんのかも?」
「まぁ、気持ちは分かるけどな数年ぶりの映画化だからな」
「だよなー!今日のために過去作見返してきた」
「めっちゃ気合い入ってるじゃん笑」
映画館に着くまで映画の話で盛り上がり、楽しくてあっという間に到着した。
◇◇◇
「…あ〜!面白かったー!」
「だな、俺あのシーンが好きだな2人で海に飛び込む所」
「分かる、めちゃくちゃ熱かったよな」
今は映画を観た後、昼食にラーメンを食べて作品について語っている。
ここが良かった、あのシーンがすごかったなど思い思いに話している。
さっき映画館で買った特典画集を家に帰るまでの楽しみに取っておこう。
しかし、さっきからチラチラと視線を感じる。おそらく修也に対する視線だ。やっぱりモテるやつは違うなあと思う。ラーメン屋でありながらも女性客も結構いてかなり混んでいる。
視線に気づいているのか分からないが、修也はいつも通りだ。
クールで落ち着いてて、カッコよくて俺とは正反対だ。
だから惹かれたのだろう、俺にはない物を持っているから。
「久、これからちょっと付き合ってくれね?」
「え、うん。分かった」
◇◇◇
「やっぱまだちょっと寒いな」
今日は3月の某日、暖かい日も少し増えたとはいえ肌寒さもあって服装も悩む季節である。
桜並木の下を歩きながら、ぽつりぽつりと会話をしてまだ桜の蕾もついてない木を見ながら来月くらいには桜が咲くなーなんて思っている。
しばらく歩いた先にベンチがあり途中で買った飲み物を飲みながらたわいのない会話をする。
「てか桜が咲いてたら花見できたのにな」
「そうだな、まだ早かったな」
「桜咲いたらさ、また来ようぜ」
「あぁ、クラスの奴らも誘って行くか」
「いや、2人で」
「え?」
「嫌か?」
「全然嫌じゃないけど…」
「なら、行こう?」
何気に花見を2人で行くのは初めてだ。
今までは、クラスの奴らと行ったり部活仲間と行くことがあったから。
「俺、久のこと好きなんだ」
「え…」
「だから付き合ってほしい」
突然の告白。これは夢だろうか。
思考が追いつかない。
「後、これ、この前のバレンタインのお返し」
「え、、ちょっと待って!俺バレンタインにあげてない…」
「どら焼き」
「は?」
「どら焼き、あれ久がくれたんだよね?」
「…どうして」
「分かるさ、何年幼馴染やってると?それに和菓子が好きなこと知ってるの限られた人しか知らないし」
「……マジか、バレてたのかよ」
「幼馴染舐めんなよ?」
「やば…幼馴染こわー」
ヤバい、バレていた。名前を書かなければ気づくはずがないと思っていたのに。修也の勘鋭いな。
「一般的にバレンタインに和菓子を贈るのって特別な意味はないんだな、この前初めて知ったけどさ」
「…うん、そうだな、その意味で合ってる…」
「久がどういう気持ちでくれたのかは久にしか分からないけど、俺はさ、好みを知った上で和菓子を選んでくれたことが嬉しくて、だから俺にとっては特別な意味があると思っていい?」
「特別な意味…」
「もう一回言うけど、久が好きだ、付き合ってほしい」
「…俺、バレンタインに和菓子を贈る意味、知ってたんだよ。でも修也、和菓子が好きだからあげたら喜んだ顔見れるかなって思って…名前書かなかったから誰があげたか分からないし、食べてくれないと思ってて俺としてはあげるだけで良かったんだよ」
本当に修也の喜んだ顔が見たくて、ただ渡すだけで良くて、誰からなんて気づいてほしくなかったのに、
今、あげて良かったなんて思ってる。
「お、俺も修也が好きだ…ずっと好きだった…」
震えた声で返答をする、気を抜いたら涙が出そうだ。
「うん…ありがとう。久孝、好きだよ」
修也の両腕が俺の体を包み込み、ぎゅっと抱きしめられた。
「修也…」
「…ごめん、勝手に抱きしめて、久が可愛すぎて抑え切れなかったわ」
「か、可愛くない!!」
「ごめん、ごめん笑」
修也といると落ち着くけど、やっぱりドキドキして心臓がもたない。
手元がガサガサと騒がしいなと思えば先程、貰ったお菓子だった。
「あ、そのお菓子開けていいよ」
「うん、ありがとう」
袋を開けると、カップケーキが出てきた。
「カップケーキ…」
「その、意味は後で調べてほしい…」
「分かった」
家に帰ってから意味を調べてしばらく悶えていたのはここだけの話にしたい。
◇◇◇
4月某日、この間約束した通り
桜並木の下を歩きながら花見をしている。
「すげー、満開じゃん。今年咲くの早くない?」
「全体的に早いよな、入学式の日は散り始めてるかもな」
俺たちはこの春、高校3年に進級する。去年は同じクラスだったが、今年はどうなるか分からない。
けど、今までと違うのはただの幼馴染じゃなくて特別な関係になれたことだ。クラスも同じになれたらいいななんて求めてしまったら欲張りだろうか?
春風が吹いて、桜がひらひらと舞う。来週にはこの道が一面、桜だらけになっているのかな。
「来週くらいには、この道が桜の絨毯になってそうだな」
「それ、俺も思った!」
「シンクロしたな笑…久、髪に桜ついてる」
「え、どこ…」
その瞬間、目の前には修也の顔があり気づくと唇にキスをされた。
「?!ちょ、修也…ここ外なのに」
「大丈夫、死角になってるから見えない、それに本当に桜ついてたし」
修也が掴んだ花びらがひらひらと風に舞って飛んでいった。
「あ、ありがとう」
「ん、来年も来ような」
来年の約束ができることに内心喜び、修也の言葉に頷いた。
「この後どこに行こうか?」
「この近くに、カフェあって修也が好きそうなあずきのスイーツあるみたいだけど行く?」
「行きたい」
即答した修也と笑いながら、この幸せを噛み締めながら桜並木の道を一歩、一歩歩んだ。
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