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第4話 天丼デート

「久、天丼食いに行かね?」 「え、何いきなり、まあ行くけど」 今は俺の部屋で夏休みの課題を一緒にやっていて丁度、集中力も切れかけていた所で修也が口を開いた。 多分、修也も集中力が切れたのだろう。 高校最後の夏休み、俺たちは受験勉強に励んでいた。しかし、勉強漬けでは思い出には残らない。 あと今年三月に修也と付き合ったばかりだ。付き合ったからといっても学校もあるしいろいろ忙しいし、近場で過ごすことが多い。それでも俺は修也と一緒にいれるだけで嬉しいことには変わらない。 「ネットで調べたらこの天丼屋が美味いらしい」 「へぇ〜、ここ隣町じゃん?意外と近いな」 「だろ、昼ここで食おうぜ」 「うん」 ◇◇◇ 「うわ〜、開店前に来たのに混んでんじゃん」 「やば、だいぶ先だな結構、待つな」 俺たちが来た時には、家族連れやカップル、友達同士など何組かすでに待っていた。 「…修也、どうする?このまま並ぶ?」 「せっかく来たし、並ぼうぜ?」 バレンタインの時は一人で並んだが今日は二人だから心強い。 それに修也と一緒なら並んでても苦にならないし楽しい。 しばらく話していると丸イスが一人分空いた。 「久 座っていいよ、疲れたろ?」 「え、あ、じゃあごめん」 こういう風に気配りができるとこもカッコいいと思ってしまう。 それを皆んなに対してやってしまうから修也はやっぱすごい。 「ん?どした?」 「なんでもない、天丼早く食いたいなって思って」 無意識に目線を向けてしまって一人で恥ずかしくなってしまった。 「うん、俺も腹減った」 「…わっ!何急に」 わしゃわしゃと犬のように俺の頭を撫でる。 「久、可愛いな」 「〜〜〜…!!修也やめてくれ…」 いつもより修也の表情が柔らかくて新鮮でこっちまで嬉しくなる。学校ではもっと落ち着いていて、笑顔もどこか他人行儀な感じだ。でも学校以外だと年相応な笑顔でよく笑う。俺はいろんな面があっていいと思うし、どっちの修也も好きだ。幼馴染として付き合って長いが新たに恋人という関係も加わりまだ知らない修也を見れるのかなと思うとこれからが楽しみだなあと思ったりする。 ◇◇◇ 三十分くらい経っただろうか、店員から呼ばれ席に通された。個人的に和を基調とした食堂のイメージを抱いていたがとてもキレイな洋食屋みたいだ。店内に広がる天丼の匂いが鼻腔を擽る。 店内を見回していると、隣でくう〜きゅるるると腹が鳴る音が聞こえた。 「腹が、鳴った」 「五○さん…?ポン、ポン、ポン…よし、店を探そう」 「俺の腹は何腹だ?」 「天丼腹では?」 などと茶番劇を繰り広げつつメニューを選ぶ。 「何にしよう…迷う」 「天丼Uにするわ」 「早!どうしよう、天丼&ミニ麺セット…天丼U…迷う」 「天丼U食いたいなら俺のも一口やるよ」 「まじ?んー…じゃあ天丼&ミニ麺セットにする!」 「よっしゃ、頼むわ」 ◇◇◇ 程なくすると天丼が運ばれてきた。 「お〜!美味そう〜」 「海老天普通にでかいな笑」 海老天、さつま芋、野菜の天ぷらが入った天丼。蕎麦はかまぼこ、ネギといったオーソドックスな蕎麦。 修也のは海老天、コーン、野菜の天ぷら。 「「いただきます」」 両手を合わせ、箸を割り、海老を口に運ぶと衣がサクサクしていて海老のプリッとした食感が口に広がった。 「〜!海老うまい!」 「ホントな!コーンも美味いよ」 「コーンいいなぁ」 「そっち入ってない?あげよっか」 「え、いいの?ありがと、ん、コーンめっちゃ美味いんだけど!」 「だよなー」 天ぷらが美味いのはもちろんだが、ご飯に染みた甘辛いタレがなんといっても最高だ。 「…ん、久ご飯粒ついてる」 「え、マジ?どこ?」 「ここ」 修也の指がご飯粒を掴むとそのまま自身の口に運ぶ。 あまりの美味しさ故に天丼にガッついてしまって急に恥ずかしさが込み上げてきた。 「あ、ありがと…」 「久、子供みたい」 「分かってるよ…天丼美味すぎて気づかなかっただけだし…」 自分でも子供みたいだなとは思うけど、どうも修也の前では気を抜いてしまう。 「お礼に蕎麦あげるよ」 「!…いいよ、俺は」 「俺もコーン貰ったし修也、蕎麦に目線がいってるから食いたいのかなって」 「…いただきます」 「うん」 「美味い、口直しには丁度いいな」 「だよな」 このまま食べ進めてあっという間にペロリと完食をした。 『ありがとうございました〜』 「腹いっぱい、美味かったなー」 「な、天丼だから重いかなって思ったけどいけたな」 「軽くいけるよな、また行こうぜ」 「そうだな」 ◇◇◇ 「はぁ、あっつい…着いた、着いた」 「外暑かったー…お邪魔しまーす」 昼は修也の家に行くことになった。 「先に部屋行っていいよ、エアコンつけていいから」 「はーい」 修也の部屋はいつ来ても片付いている。本棚にはきちっと並べられた漫画本、参考書、ゲームソフト。 俺の部屋とは大違いだ。俺の部屋は物で溢れて捨てようと思っても中々捨てられない。今日だって修也が来るから朝早く起きて掃除をした。いつもある程度片付いていたら楽なんだろうけれど俺の性格上、しょうがないと思う。 「お待たせー、麦茶持ってきたー」 「おー、ありがとー」 一口麦茶を飲んで喉を潤す。 エアコンも効き始め、一瞬の静寂が訪れる。 「久、映画見ない?」 「うん、いいよーなに見んの?」 何故この体勢で見ることになったんだ…緊張して落ち着かない。 俺が修也の足の間に座り、修也に抱きしめられているし、くっ付けるのは嬉しいが未だに緊張する。 それに映画の内容が恋愛系だから尚更だ。 いつもの俺たちならアクションやコメディ、アニメ系を見るのに。 映画に集中したいが内容が入ってこなくて戸惑う。ガッチリ腹を腕で抱きしめられてるから修也の体温、匂い(いい匂い)が気になってエアコンが効いてるのにまた体温が上がりそうだ。 「…修也、この体勢やめない?」 「なんで?やだ?」 「やだっていうか、その…」 ドキドキして集中できないからです。 俺が言い淀んでいると修也が先に口を開く。 「でも、そっか。久の顔見れないしな、こっち向いてくれる?」 「?」 唇に柔らかいものが触れて、啄むようなキスを落とす。 次第に額、頰、耳と範囲を広げ唇が吸い付く。 また唇に触れたかと思うと舌先で唇をこじ開けられ温かい感触が広がる。 舌先で歯列をなぞり、互いに絡まり合えば口の端から唾液が零れ落ちた。 「…し、舌…」 「…っ我慢できなくて…」 目線が絡み合うと強く抱きしめられた。 「…もう一回していい?」 「…うん」 今度は深く口付けられ、頭を左手で押さえられ、右手で腰を抱かれ逃さないとばかりに力が込められる。 しかし、身体に触れる手が温かく心地が良いことは紛れもない事実でこの感情をどう整理しようかと戸惑う。ただ溢れてくるのは好きな人と触れ合うことが今1番の幸せだということだ。 さっきまで観ていた映画はいつしか頭の隅に追いやられ、互いを求め合うように何度も、何度も唇を重ねた。

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