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第5話 きっと、二人なら
十二月某日、夏休みの天丼デートから五ヶ月くらい経ち、大学入試に向けて受験勉強に本腰を入れていた。
学校の後は予備校に通い、修也との時間はあまり取れないが今は志望校に受かることに集中しなければならない。
ちなみに、俺の志望校は東京の大学だ。修也の志望校も東京の大学で流石に大学は違うところだが、上手くいけば春から東京で二人暮らしをする予定だ。
修也から誘いを受けたがよく知らない土地で1人で暮らすより二人の方がいいかもしれない。
このことを親に話したらOKをもらい、実現に近づいた。
だから目標があれば頑張れる。最近の原動力になっている。
しかし、付き合ってから夜に電話をすることが日課になっていたけれどここの所電話をする機会が減ってしまった。
受験が本格化する前はダラダラと電話をするのが日課になっていた。
学校があってもなくても関係なく。
家が隣だからといっていつでも会いに行けるわけではなく、ここ最近の忙しさから気が引けてしまう。
電話でさえ躊躇して、相手の時間を奪ってしまうと思うと中々行動に移せないでいた。
登校中や学校では話せるから良いのだが、それだけでは物足りなくて…
付き合ってから段々と欲張りになっていく自分にも驚く。
「修也、今何してるかな…」
勉強の途中でふと修也のことを考えて勉強に集中できない。
こんなことを思っているのはきっと自分だけなんだろうと卑屈になる。
片思い歴で言えば俺の方が断然長いけど俺ばかりが余裕がなくて結局最初に惚れた方が負けなのかなとさえ思う。
するとスマホの着信音が鳴り、画面を見ると今考えていた人の名前だった。
すかさず、画面をタップする。
「…もしもし」
『あ、もしもし。俺だよ、俺』
「オレオレ詐欺ですか??」
出た。茶番劇。ネタを入れないと落ち着かない病気なのかな??
『電話すんの久しぶりだよな、ごめんな、電話できなくて…』
「気にすんなよ、俺も今余裕なくてできないし」
本当は電話越しじゃなくて今すぐ会いに行きたい。電話だって毎夜したい。
でもそんなこと言ったら迷惑をかけると思って自分の気持ちを強く言えない。
『あのさ、今から会える?』
「…え、でも結構時間遅いけどいいの?」
『明日休みだし大丈夫だろ』
◇◇◇
「修也ー」
「おう。久ごめんな、呼び出して」
「大丈夫」
うちの地域はあまり雪は降らない。
今日は日中も快晴でとても天気が良かった。
空を見上げると星が出ていて空気が澄んでいる。
「よし、行くか」
「なぁ、どこ行くんだ?」
「コンビニデート」
「デ、!?」
いまだにデートという言葉に慣れずに気恥ずかしさを覚える。
「ん」
修也が手を差し出すが、それを俺は拒む。
「え、でも夜だけどたまに人いるかもだし…」
「大丈夫、周りのことなんて気にしないよ」
「…分かった」
修也に言われると不思議とそんな気がする。
「手温かいな、眠い?」
「いや、元々体温高いだけだから。てか修也、手めっちゃ冷たくない?大丈夫?」
「冬は大体こんな感じだな、朝起きるのさらに辛いわ」
「修也、寝起き悪いよな…クラスの女子を遠ざけてたことあったよな笑」
「あれはわざとじゃない、低血圧なだけだ」
「後から皆んな分かって普通にしてたな」
修也は朝が弱い。ある時はシャツのボタンをかけ間違えてめちゃくちゃな時があってその時は笑えた。
本人に言ったら怒られるから言わないけど。
「久は寝起きいいよな、どうやったら寝起き良くなるんだ?」
「俺もそんなに良くないよ、強いて言えば、早寝早起き?」
「ハードなこと言うじゃん…」
寝起きの悪い人にとっては難しいようだ。
◇◇◇
コンビニに着いてから、色々物色をして品物を買いイートインスペースで購入したものを広げる。
肉まん、スナック菓子を食べながらたわいない話をする。
「なんか久しぶりにゆっくり話せたな」
「デートらしいデートもできなかったしな」
「最後に出かけたのって夏休みの時天丼食べに行った時以来かもしれないな」
「結構経ったな、受験終わったらまた食いに行こうぜ」
「そうだな」
何となく空を見上げると星がいつもより輝いて見えた。
今日の昼は快晴だったからかクリアに見えて暫く眺めていた。
「受かったらこの町から離れるんだよな」
「寂しい?」
「寂しいけど、多分大丈夫…修也、二人暮らししようって言ってくれた時嬉しかった、ありがと」
「…高校入った時から東京の大学志望してたじゃん?俺もそっち行きたかったし、その時から一緒に住むのもありかも?とかは考えてた」
「そうなんだ…」
結構前から考えてくれていたとは驚いた。
何だか嬉しくて、頬が熱くなって目が合わせられなくて肉まんにかぶりつく。
「頬袋できてる笑」
「修也、うるさい」
俺の頬を突こうとして指が伸びるが指を掴んで阻止をした。
◇◇◇
そして、年も明けあっという間に三月になり俺と修也は無事に志望校に受かった。
猛勉強をした甲斐があり、この時ばかりは嬉しくて少し泣いてしまった。嬉しさのあまり修也にメッセージを送るとすぐに電話が来ておめでとうと言われ心が踊った。
それから学校に報告をしに行った。春休み中に大学の準備をしたり、東京のアパートに引っ越すため荷造りをしたりと中々に忙しい日々を送っていた。
「よし、終わった」
荷造りが全て終わり明日は引っ越しの日だ。
十八年間暮らしてきた部屋に少し寂しさがあるが新たな地で頑張るためにお別れだ。
修也とならきっとどんなことがあっても大丈夫だと思いながら明日に備えた。
引っ越し当日はかなり大変だった。朝早く起きて、アパートに向かい荷物を運び、家具の配置をした。
今日は疲れすぎてすぐに使うものを出して他は明日に回すことにした。
「あー、疲れた…」
「ほんと、それな」
気を抜いたら今すぐにでも眠ってしまいそうだ。
「…久?どした、眠い?」
隣に座っていた修也の肩に頭を預けた。
「めっちゃ眠いけど、腹も減った…」
「分かる、ちょっと寝てからなんか食うか」
「うん」
「久、これからよろしく」
「こちらこそ、よろしく。修也」
互いに笑い合って、これから新天地で生きていくことに不安はあるがきっと2人なら大丈夫だと思いながら眠りについた。
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