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第8話 安らぎの場所
夕方、バイトから家に帰ると夕飯の匂いが玄関まで届き空腹を知らせる音が鳴る。
今日のバイトは散々だった。
飲食店でバイトをしているがガラの悪い客が来て騒いで他の客の迷惑になり、帰った後の後片付けがそれは大変だった。なんで長く居座る客は汚して帰っていくのだろうか。そして、その客が忘れ物をしたらしくビニール袋に直に入った生肉があり(しかも二袋)一瞬、思考が停止したしドン引きした。
なんであんなインパクトがある物を忘れるんだ?意味が分からない。それともゴミだから置いていったのか?
やけにバイトの時間が長く感じた一日だった。
「ただいまー」
「おかえりー」
今日はカレーか。食事は交代で作っているが久の方が料理が上手い。
本当は毎日作ってほしいがそれは負担になるから言わない。
今日だって大学があるのに夕飯作ってくれた訳だしすごく有難い。
俺は掃除や洗濯、洗い物を担当するのが向いていると思う。
「風呂も沸いてるよー」
「まじ?先に風呂入るわー」
「おけー」
今のなんか、新婚みたいなやりとりだったな。これは久には内緒だが外から帰ってきて料理している後ろ姿が好きだ。
後ろからハグしたいのを我慢して風呂に向かった。
◇◇◇
「ごちそうさま、美味かった〜洗い物するわ」
「サンキュー、風呂入ってくる」
「いってらー」
「ねむ…」
夕飯を食べた後は、バイトの疲れもありやっぱり睡魔に襲われる。
洗い物をしながら、目を閉じたり開けたりを繰り返す。
今日のバイトのことを思い出すと、無性に腹が立ってくる。皿をあの客に例えてめちゃくちゃ洗う。
久が風呂から上がったら、楽しみにしてる番組一緒に見て、ダラダラしながら話したい。
あー、でもハグしたいな。いきなりだとビックリするか?とか考えながら手を動かした。
洗い物が終わり一息付き、ソファで寝ながらスマホをいじっているといつの間にか目を閉じていた。
◇◇◇
「…」
目が覚めると布団がかかっていて、スマホを見ると午後11時を回っていた。
結構な時間寝過ぎてしまい、楽しみにしていた番組もとっくに終わっていた。
「あ、修也起きたんだ」
キッチンから久が来て、手にはマグカップが二つあった。
「丁度良かった。ホットミルク作ったんだけど飲む?」
「飲む。ありがと」
カップを受け取り、ホットミルクを一口飲むと、仄かな甘さが広がる。
「修也がソファで寝てるの珍しいな、バイト忙しいの?」
「あー…日によって違うんだけど今日はさ、ガラの悪い客来てそんで大騒ぎするし、汚して帰っていくし、おまけに客が忘れていった物がさビニール袋に直に入った生肉が二つあって、ドン引きしたわ…」
「マジか…それ、めっちゃ嫌な客じゃん、てかビニール袋に直に生肉ってwww」
「俺も後々じわじわ来たwww」
今日バイトであったことを話すと心がスッキリとしていた。
久の前だと話さずにはいられないというか、自分の話を聞いてほしくなる。
「飲食のバイトしてるとこっちが呼びかけても無視する人もいるし、マジでいろんな人いるよなー…」
「職種は違うけど分かるよ、製造のバイトは人間関係がドロドロしてるし、最近入ってきた外人は仕事が出来なくて職場で泣いて夜逃げして辞めたんだよね」
「マジで?…泣くのってどうなんだ?そっちも大変だな…」
「だよなー、年上の人だったけど職場で泣くのはちょっとな…辞めるのは良いけど一言くれって感じだよな…」
気付いたら久の頭を引き寄せて抱きしめていた。お互いに愚痴を吐き合ってストレスを明日のために発散する。
久を抱きしめて頭を撫でていると俺はすごく落ち着いて癒される。
あー、すごい好き。可愛い。
「久、これからストレス発散に夜遊びしない?」
「え?これから?」
「明日、俺も久も休みじゃん?遊んで発散しようぜ」
「修也って、急に言うよな…w」
急な自覚はあるが、誰にでも言ってる訳ではない。
実際には、久にしか言わない。
「しょうがないな、行くか」
「やった」
なんだかんだ言いつつ、ノってくれるのを知っているから言えることだ。あと、「やれやれ」みたいな顔を見るのも好きだから。
「ちょっと待ってて、着替えてくるから」
「ん、俺も着替えるわ」
着替えながら、どこ行こうかなと考える。久とならどこでも良いか。なんて結論を出して、相当絆されてんなぁと独り言を漏らした。
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