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第9話 ほんとに可愛いね

そういえば、自分から誘ったことってないかもしれない。 ふと、俺はそう思った。 いつも誘うのは修也の方で、自分はそれを受け入れる。 それって、対等な関係じゃなくないか? そう思ったのには理由がある。 大学にいた時に偶然女子2人組の会話が聞こえてきた。 内容は自分から夜誘いたいけど勇気が出ないという会話。 なんてタイムリーな話題。 他人事とは思えず、耳を傾けてしまった。 「やっぱ女から誘うのって変?」 「全然。付き合ってんでしょ?どっちが誘うとかなくない?」 「え〜〜、でも拒否られたら地味にショックだし…」 「ないでしょ、彼氏アンタのこと大好きじゃん」 「んー、でも飽きられるんじゃないかって不安でさ」 「その考えも分かるけど、きっと大丈夫じゃない?」 という会話が聞こえてきたのだ。 夜誘いたいけど勇気が出ないのは大いに分かる。 拒否されたらどうしようとか飽きられたらとかネガティブなことばかり考える。 こんなこと大学の友達には話せないのでネットで調べてみる。 ①ストレートに気持ちを伝える ②スキンシップをして誘惑する ③たくさん甘える ④雰囲気を作ってキスをする ⑤お酒の力を借りる など様々なことが書かれていた。 ネットの記事だから完全に信用はしないけど参考にはしようと思う。 ◇◇◇ 家に帰ると同時にスマホが鳴り、修也からこれから帰ると連絡があった。 テーブルに水が入ったコップがあり、丁度喉が渇いていたのもあって一気に飲み干す。 「?!」 飲み込んだ瞬間、喉がカッと熱くなり頭がクラクラする。 その場に倒れるようにそのまま意識を手放した。 ◇◇◇ 「…久!大丈夫か!久!」 どこか遠くで修也の声がする。 しばらく目がぼやけていたが焦点が合うと修也が必死に呼びかけていた。 「大丈夫か?!どこか悪いのか?」 「…へーき、えへへへ〜しゅうや〜」 「…?!」 修也に抱きついてまるで動物のように頬擦りをする。そんな様子を見て七瀬は困惑した。 「ひ、久?熱あるんじゃねーの?」 「ねつ?ないお??」 微妙に舌足らずな発音に違和感を感じて、額に手をやって熱がないか確認する。 熱はないが、さっきから微かに香るアルコールのような匂いに疑問を抱く。 辺りを見回すとコップがありそれを手に取って嗅いでみると匂いの正体はまさかの料理酒だった。 え?これ飲んだの?てか、料理酒で酔うの? 七瀬は今朝、水を飲もうとしてコップに注いだつもりがまさかの料理酒でしかも、それを飲まずに置きっぱなしにしていたことを思い出した。 自分の寝起きの悪さに自己嫌悪しながら、今この状況をどうするか考えていると久が首筋に一つキスを落とした。 「しゅーや、だいすき…」 「…久、嬉しいけどちょっと離れて」 「なんで?」 しゅんと悲しそうな顔をする久が可愛くて犬耳と尻尾が生えているように見える。 これはまずい。可愛すぎる。 などと思っていると口を塞がれて次第に性の匂いがする口づけへと変わっていく。 「…んっ、久…ちょっと待って…」 声をかけるが聞く耳を持たずに快楽を貪る恋人がそこにはいた。 ヤバい、これだと理性が持たない。付き合っているのだから別に問題はないが、誤って酒を飲んでしまった(自分の責任もある)相手を押し倒して良いわけがない。頭では思ってはいるものの、身体は正直だった。 普段の久から考えられないくらい積極的で色っぽい。 頬は薄っすらと赤くなっていて、少し潤んだ瞳と目線が合った。 この先の展開に心臓が高鳴り、いつの間にか見下ろす形になっていた。 こうなってしまったのも自分にも責任がある。今更、無しなんて出来ない。 ◇◇◇ 「あっ、ん…ぅ、あぁ」 身体中に赤い華が咲き、熱に浮かされ恥じらい、身を捩る姿は妖艶な雰囲気を纏っている。 「…久、可愛いな」 「〜〜…!しゅ、しゅーやっ!」 「ん?どうした?」 「あの、さ」 言い淀む様子を暫く見ていると、口を開いた。 「しゅうやの、なめていぃ…?」 突然の申し出に内心、ドキリと心臓が鳴る。 なんだ、この可愛い生き物は。 思わず真顔でフリーズしてしまった。 酒の力は偉大だ。(といっても料理酒だが)久のこんな可愛い姿を見れたのだから今朝の自分、グッジョブと心の中で褒める。 申し出を断る理由はなく、即OKを出した。 赤い舌でチロチロと舐める姿は正しくエロと可愛いの融合である。 時折、上目遣いでこちらを見るたびにドキリと鳴った。 「んっ…」 男ならば大体感じる場所は同じではないだろうか。 「気持ちいい…?」 「うん、気持ちいいよ」 サラリと髪を撫で上げて梳いた。髪から覗く赤い耳が目に入るとつい出来心で触ってしまう。 「んっ…!しゅうや…耳、」 わざと感じるように撫でると、ピクピクと反応して咥えていたモノを離す。 「久、ここ好きでしょ?」 「わっ!」 ビクっと体が強張り耐えているのか少し震えている。 耳から首、鎖骨、胸、腹と順に触っていく。勃ち上がっているそれに触れると甘美な声が聞こえた。 下着をずらして、直に触ると熱を帯びておりそっと擦る。 「んっ…ぁ、気持ちぃぃ…」 蕩けた顔で告げられて瞼にキスを落とす。 「もっと気持ちよくなろ?…口でしてくれるのは嬉しいけどナカでイきたい」 行為をするとき久の性格上、自分の気持ちを吐露することはあまりない。料理酒の力もあって素直になった恋人に興奮してベッドに押し倒した。 ◇◇◇ お互いの息と、汗が混ざり合ってまるで一体化しているようだ。 最近、お互い学校やバイトが忙しくて久しぶりにしたのもあって何度肌を重ねても足りない。 「…イキそう?」 「あ、あ、ぁ、…っっ!!」 切なそうな顔をして、だが快楽に溺れた表情がより一層、心を刺激して掻き立てる。 口をこじ開け舌を交差させて絡み合えば甘い香りが漂う。 頭の片隅で邪な考えが芽生えたがこれを伝えていいか迷った。 しかし料理酒の力もあるし大丈夫じゃないかとも思う。 「久、上乗って?」 「え?うえ?」 「そ、上乗って動いて?」 普段の久なら恥ずかしがって絶対してくれないと思うが、酒が入ってる今なら聞いてくれるのではないかという単純な考えだ。 「…いいよ?」 こてんと横に首を傾ける仕草が可愛くて抱きしめた。 「…これでいい?」 「うん、そのまま腰下ろして…挿れて」 上に乗った久を見上げると汗ばんだ額に赤い頬と恥ずかしさもあり、何とも言えない色っぽさがあって目が離せない。 おずおずと掴み、自身の後孔に当てる。 「…あっ!」 ゆっくり、ゆっくりと中まで挿れると奥がキュッと閉まった。 「あっ、ん…はいっ…たっ!」 「…っ気持ちいい」 気を抜くとイってしまいそうになるのを堪えて誘導する。 「動ける?」 「…うん」 腰を少し浮かせて上下に抜き差しを繰り返すといやらしい音が聞こえた。 「えっろ…」 「あ!ん、あぁ…しゅぅやっ」 涙目になりながら、恥ずかしいのか顔に手をやって隠して手の甲を噛もうとする。 「噛むくらいなら、こっちの方がいいでしょ?」 両手を取って指を絡ませて、キツくぎゅっと握った。 だらしなく開いた口の端から唾液がタラリと漏れている。 「やらしいな…腰こんな動いて」 「ゃあぁぁ、…見ないでっ、はずかしいぃ…」 「ほんと、可愛いね」 絶頂が近いのか、動きが早くなるに連れて乱れていく。 「あぁああ…もぅ、だめ、いく、ああぁあ」 「っ…俺も、もう無理…」 「あ、ぁあああ…っっ!!」 ◇◇◇ 太陽のひかりがカーテン越しでも分かるくらい主張が激しく、目覚めると部屋がもう明るかった。 所で、何故自分は裸なのか。家に帰ってからの記憶がない。怖くなって辺りを見回すと横で修也が寝息を立ててよく眠っている。 修也も裸でますます分からない。 多分、やってしまったというのは分かる。腰がめちゃくちゃ痛いから。何故だろう。知るのが怖い。 修也が起きたら聞いてみようか、 などと思っていると寝返りを打ってこちらを向いた修也が目を覚ました。 「あ、おはよ…」 「おはよ」 「…あのさ、修也昨日って、何があった…?」 恐る恐る聞いてみると、修也が呟く。 「料理酒」 「…は?料理酒??」 「俺が昨日の朝、水飲もうとしたんだけど間違えて料理酒ついじゃってさ、しかも飲まないでそのままにしたんだよな…」 「寝ぼけすぎじゃね??」 朝が弱いのは知ってたが寝ぼけすぎじゃねーか??大丈夫か? 「で、それを久が飲んだんだよ」 「料理酒を…?」 「そう」 「ええええ??まじ??」 家に着いて喉が渇いて一気飲みしたのがまさかの料理酒??! 確かにあのとき喉が焼けたように熱くなったのを覚えている。 「…あと、体痛くない?夜無理させたから。元はと言えば俺が悪いし…ほんとごめん」 申し訳なさそうに謝り、深々と頭を下げた。 「え、修也、そんな謝んなくていいよ!…ていうか、マジで記憶がないんだけどさ、何があったんだ…?」 「あー…まぁ、簡潔に言うと俺が久に誘われたみたいな」 「は?!」 料理酒で酔って修也を誘ったってこと?!料理酒とはいえ、酒の力ってすげー… 「いや、マジですごかったわ〜…ベロチューしてくれるし、俺の舐めてくれるし、それから…」 「そ、それ以上言わなくていいから!!」 聞いてるだけで恥ずかしさが込み上げて布団を被った。 隣で含み笑いをしてる修也になんか腹が立つ。 「成人しても久は酒飲まない方が良いかもな、飲むなら俺がいる時だけにしろよ?」 頭に俺より少し大きい手が乗って優しく撫でられる。 「修也だけでも他の人がいても絶対飲まないから!」 「えー、それは残念」 「面白がってんだろ!」 もぞもぞと布団の中に入ってくると急に真剣な表情になり息を呑む。 「でもこれはマジで言ってるから 久の可愛い姿は他の奴には見せたくない、俺だけの特権にしたい」 「可愛くねーし…」 「自分で思ってるより破壊力すごいからね?分かってる?」 急にイケメン発揮するのやめてくれないかな。心臓に悪いんだよ。 項垂れてると、また可愛い、好き、愛してる。の言葉が降ってくる。 愛おしそうに見つめる瞳がキラキラ輝いて見える。 まだ俺は酔ってるのかもしれない。

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