4 / 50

4 お相手の噂

いつ頃、お相手の家に嫁ぐかの話を決め、俺はまた少ない荷物を準備し、 親に頭を下げて嫁入り道具の準備をした。 あと1週間でこの実家ともおさらばか。 今度はどんなに行為が痛くても、絶対に相手にバレないようにやりすごそう。 そんな風に考えて自室でお茶を飲んでいると 世話係の老女が俺の向かいに座った。 「松乃さま…、わたくしは今回のご結婚、大変不安でございます」 「…、どうして?」 「お相手の春日井さまのご子息は、かなり厳しい方だと噂されております。 松乃さまが傷つくことになったら、わたくしは…」 「大丈夫だよ。それに、ここにいても俺は役立たずだし、結婚してもらえるだけありがたいよ。 心配してくれてありがとう」 「松乃さまが小さい時から、ご一緒しておりましたから、貴方様がどんなに優しくて素晴らしい方か、わたくしは存じております。 Ωだろうと三男だろうと、わたくしは松乃さまが大好きです。それだけは忘れないで下さい」 頭を下げるばあやに俺は少し目が潤む。 「ありがとう。でも、俺は大丈夫。 もう20歳だから」 俺が自信がありそうに微笑むと、ばあやも不安そうではあるが微笑み、その場を後にした。 実家で唯一の俺の味方をしてくれたばあや。 彼女ももう若くはない。 早く安心させてあげたい。 しかし…、春日井の長男… 頼嗣(よりつぐ)様 後から知ったけども、血も涙もないくらい厳しく、他の追随を許さないくらい優秀な男だと聞く。 きっと俺が破談した元夫よりも 厳しい方なんだと思う。 俺、2度と戻って来れないどころか、最悪首をはねられそうだな。 まあ、Ωで婚姻歴ありだなんて 死んでいるも同然か。 最後のチャンスだと肝に銘じて 俺は嫁ぐその日を待つしかない。

ともだちにシェアしよう!