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4 お相手の噂
いつ頃、お相手の家に嫁ぐかの話を決め、俺はまた少ない荷物を準備し、
親に頭を下げて嫁入り道具の準備をした。
あと1週間でこの実家ともおさらばか。
今度はどんなに行為が痛くても、絶対に相手にバレないようにやりすごそう。
そんな風に考えて自室でお茶を飲んでいると
世話係の老女が俺の向かいに座った。
「松乃さま…、わたくしは今回のご結婚、大変不安でございます」
「…、どうして?」
「お相手の春日井さまのご子息は、かなり厳しい方だと噂されております。
松乃さまが傷つくことになったら、わたくしは…」
「大丈夫だよ。それに、ここにいても俺は役立たずだし、結婚してもらえるだけありがたいよ。
心配してくれてありがとう」
「松乃さまが小さい時から、ご一緒しておりましたから、貴方様がどんなに優しくて素晴らしい方か、わたくしは存じております。
Ωだろうと三男だろうと、わたくしは松乃さまが大好きです。それだけは忘れないで下さい」
頭を下げるばあやに俺は少し目が潤む。
「ありがとう。でも、俺は大丈夫。
もう20歳だから」
俺が自信がありそうに微笑むと、ばあやも不安そうではあるが微笑み、その場を後にした。
実家で唯一の俺の味方をしてくれたばあや。
彼女ももう若くはない。
早く安心させてあげたい。
しかし…、春日井の長男…
頼嗣(よりつぐ)様
後から知ったけども、血も涙もないくらい厳しく、他の追随を許さないくらい優秀な男だと聞く。
きっと俺が破談した元夫よりも
厳しい方なんだと思う。
俺、2度と戻って来れないどころか、最悪首をはねられそうだな。
まあ、Ωで婚姻歴ありだなんて
死んでいるも同然か。
最後のチャンスだと肝に銘じて
俺は嫁ぐその日を待つしかない。
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