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5 お屋敷

当日、家紋の入った立派な馬車が迎えに来た。 てっきり、無地の地味な馬車でこっそり連れてかれるものだと思っていたから驚いた。 こんな春日井の者ですって大々的に言いながら、俺を迎えに来たなんて分かれば、噂されてしまわないだろうか。 まあ、いずれ知れ渡ることだし、名家だから気にしないのかもしれないと思い直す。 俺の存在など、春日井の名を脅かすほどの影響力はない…、そう考えると少し気楽だ。 乗り心地のいい馬車で走ること数十分。 その車は立派な門を潜った。 そして目に入ったお屋敷は、俺が目を剥くほどの大豪邸だった。 本当に…、どうしてこんな名家が俺なんかを嫁に…? 何か裏があるのではないだろうか? 馬車の扉が開き、従者のような人が俺の荷物を持ち、俺が降りられるように手を取ってくれた。 こんな風に気を使われるのも久々だ。 「松乃様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ。お部屋へご案内いたします」 若い女性の従者が来て、俺の手荷物を受け取ると先導して歩き始めた。 Ωとはいえ、流石に女性よりは力がある。 俺が慌てて「荷物は自分で持ちます」と言うと 「奥様になる方にそんなことさせません」とピシャリと言われた。 少し冷たい雰囲気まである。 まあ、冷たくされるのなんて慣れっこだから良いけど、彼女が俺の身の回りのお世話がかりになるのだとしたら、ばあやシックになりそうだ… 用意されていた部屋はとても豪華で、身に余るようだった。 俺なんか、納屋にでも閉じ込めておけばいいのに。 それと… 「あの、春日井様にご挨拶をしたかったのですが」 一度も頼嗣様どころか、春日井家の人に会っていない。 嫁入りする身として、挨拶ぐらいはしなきゃいけないのではないだろうか。 「頼嗣様は多忙のため、今はお会いできませんが、夕食は同席するとのことです。 こちらのお屋敷は頼嗣様のものになりますので、ご家族はおりません」 「あ…、そうですか」 と言ってから、頼嗣様だけのお屋敷!?と混乱した。 我が実家は両親+兄夫婦であの規模なのに、1人のお屋敷でこんな立派なの!? 本当に格が違いすぎる。 嫁にする相手、なにか間違ってしまっているのではないか? 夕食で会った時に「誰だこいつ」ってなるんじゃないだろうか…

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