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7 初対面
席についてソワソワしながら待っていると、眼光の鋭い、でも整った顔立ちの男の人が来た。
この人がきっと、頼嗣様だ。
俺は慌てて立ち上がり、「は、はじめまして」と頭を下げた。
ドキドキしながら相手の返しを待つが、
「あぁ、座っていい」とあっさりとした回答が返ってきて、俺は呆気に取られた。
え、俺たちって婚約したんだよな?
なんかそう言う話は…?
ゆっくりと顔をあげて頼嗣様を見ると、
彼は俺なんか見ておらず、
スッと椅子に座った。
俺はなんだか体の力が抜けてしまい、
そのまま腰を下ろした。
そんな感じで、全く会話のない静かなディナーが始まった。
こじんまりとしたダイニングだけど、
料理はコースのようで
給仕係が料理を運んでくる。
どれも美味しいけれど、気まずい。
何か話そうかと顔を上げるが、頼嗣様の威圧感に俺の喉はグッとつまる。
すごい綺麗な顔だし、太ってはないが体格が良くて、モテる男って感じがするのに
その表情は冷たく、全く人を寄せ付けない。
ばあやが心配していた意味がわかった。
確かに厳しい人なのかもしれない。
食事中にべらべら喋るのもお行儀が悪いし!とテキトーな理由をつけて、話すことは諦めた。
コース料理って一品一品がちまちましてるのに、終わる頃にはかなり満腹になる。
最後のデザートが食べきれずに苦戦していると、見かねたのか頼嗣様が「無理をしなくていい」と声をかけた。
「い、いえ。どれも美味しいので、しっかり食べ切ります」
と、言ってから、無理やり完食しようとするなんて、卑しいと思われただろうかと焦る。
「もし多いなら、明日以降は減らすようにしようか」と頼嗣様はなんともない様子で言う。
「あ、えっと…、助かります」
「他に、好き嫌いはあるか?」
「いえ、とくには」と答えてから、せっかく頼嗣様が聞いてくださったのに!と、思い直して慌てた続けた。
「嫌いなものはないですが、いちごが好きです」
「…、いちご?」
「あ、すみません。子供っぽいですよね!
自宅の庭で育ててたので…」
「いや、そんなことはない。
貴殿は畑をやっていたのか?」
「Ωなので…、俺にできることなんてなかったですから。それに、楽しいですよ、菜園は!」
「そうか。もし望むなら、庭に何か植えるといい」
「それは嬉しいです。その、よ、だ…、旦那様は何かお好きな野菜はありますか?」
「頼嗣でいい」
「えっ…?あっ…、でも」
「夫婦になったんだから、名前で呼ぶのが自然だろう」
なんだ、そういうことか。
慌てた俺が恥ずかしい。
「それでは、よ、頼嗣様。俺のことも松乃って呼んでください」
「松乃…、か」
一瞬、頼嗣様の素敵な声で名前を呼ばれたかと思って、どぎまぎしてしまった。
が、この反応を見るに、俺の名前を知らなかったっぽい。
こんな興味もない平凡なバツイチΩに、どうして求婚なんかしたのだろう。
俺が首を捻っていると、頼嗣様が席を立ち、俺に声をかける。
「すまない。所要があって先に失礼する。
松乃はゆっくり食べるといい。
それと…」
「はい?」
「私は南瓜が好きだ。畑を作るときに検討してくれ」
そして、ふっと笑った気がした。
一瞬の振り返った隙にそんな顔をした気がした。
気のせいか?
気のせいだとしても、全く表情を変えない美形が微笑むと嫌でもキュンとしてしまう。
どうしよう、俺、ちょろすぎる。
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