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8 お出迎え
今まで孤食だった分、頼嗣様と夕食を共にするのは気まずいけど、揃って手を合わせる時なんかは家族なんだと実感し、少し嬉しい。
家にずっといても疎まれず、料理人が作ったご飯を食べられる。
しかも夜は夫と一緒。
正直、実家よりも住みやすい。
ただ、頼嗣様は忙しいらしく、
夕食だけしか一緒に食べられないが
ここにきて1ヶ月の間は毎日、一緒に夕食をとっていた。
貴重な夫との時間だ。
しかし、一昨日から2日間、頼嗣様は仕事で家を空けていた。
その頼嗣様が今日帰って来る。
差し出がましいかとも思ったけど、
お出迎えしたいと使用人に伝えたら、
「旦那様は喜ばれると思います」と
言ってくれたので
予定の時間に玄関で待つことにした。
こんなふうに人の帰りを待つなんて、
実家ではΩと判明してからは皆無だったし
俺が不能だと分かってからは元旦那様も
俺の顔を見るのも嫌そうだったから控えてたし
とても久々だ。
でも、ふと迷惑かも…、と
部屋に戻りたい気持ちにもなる。
ううう…
俺は頼嗣さまが帰って来るワクワクと
嫌がられたらどうしようという不安で
うろうろと玄関の前を彷徨った。
遠くから複数の馬の足音が聞こえ、
頼嗣さまが帰ってきたのだとわかり、
俺は姿勢を正した。
手のひらがじっとりと汗ばむ。
馬に乗った頼嗣様が門を潜った。
馬車じゃなく、乗馬にしたんだ…
「あ、お、おかえりなさい」
頼嗣様と目が合って、声をかける。
頼嗣様は驚いた顔をしたあと
「ただいま」と言った。
そしてそのまま、馬を降り、待機していた厩番に手綱を渡した。
「お馬さんで行かれてたのですね。
お疲れですよね」
「あ、ああ。馬車だと時間がかかるからな。
なぜここに松乃がいる?」
「え?えっと…、お出迎え?です」
「そうか…。次からは気を遣わなくていい。
家の中にいなさい」
「あ…、申し訳ございません。
ご迷惑でしたよね」
ほら、やっぱり差し出がましかった。
そりゃ、長旅で疲れた後に可愛くもない嫁の顔なんか見たくないだろう。
「迷惑ではないが…、今の時期は暑いし、予定の時間に帰れるかも分からないから
倒れたりでもしたら大変だ」
嘘でもそんなふうに俺の体を気遣うようなことを言われ、俺は胸がじんわりと温かくなる。
悲しさで溢れそうだった涙が、嬉し涙に変わってしまいそうで慌てて首を振る。
こんなところで泣いてしまったら
変なやつだと思われてしまう。
「頼嗣様が頑張っていらっしゃるのに、俺ばかり楽をするのは…」
「気持ちは嬉しいが、私はαだから頑丈にできている。
松乃はΩなんだから、無理をするな」
「…、はい。次からは気をつけます」
「ああ。…、はぁ」
家に入ろうとした俺のすぐ後ろで、頼嗣様のため息が聞こえた。
…、やっぱり迷惑だったのかも。
浮かれて突っ走るのはもう辞めよう…
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