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9 夕食
俺がこの家に嫁いで早1ヵ月。
最初のころとは違い、頼嗣様と食事中に2~3言くらいは会話するようになっていた。
だからこそ、この2日間の孤食は結構寂しかった。
今日は、頼嗣様がいらっしゃるし、実家と元旦那の家くらいしか知らない俺は、頼嗣様の遠出の話が聞きたかった。
ワクワクしながら夕食の時間を待つ。
合間にようやく土の準備が終わった畑に、野菜の苗を定植していく。
本当は種から植えた方が達成感があるんだけど、今の時期からじゃ難しい。
もちろん、南瓜もある。
実家で家庭菜園していたころ、離れに台所はなく、今の俺には料理のスキルがない。
もしも、南瓜が採れたら、今度は調理までしてみたい。
明日からは、畑ですることは水やりくらいだし、お願いできそうなら調理場に入れてもらおうかな…
今日の夜、頼嗣様にお願いしてみよう。
土いじりを終えて、部屋に備え付けのシャワーを浴びるともう夕食の時間になっていた。
テーブルで向かい合って久々に見る頼嗣様のお顔は、少し疲れが滲んでいるようだった。
おずおずと「あの、ご体調は大丈夫ですか」と、聞いた。
「体調というのは?」
聞き返されて面喰いながらも「顔色があまりよろしくないように見えたので。余計なお世話ですよね」と答える。
お出迎えのあたりで、もうはしゃがないと決めたのに、どうも今日の俺は浮かれているらしい。
「余計なお世話ではない。松乃の気を使わせてしまって悪いな」
と自嘲気味にほほ笑む頼嗣様に、やっぱり余計なことだったと反省した。
それはそうと、アンニュイな表情の頼嗣様も美しいな。
「嫌だったら構わないんですけど…」
今日の俺はやっぱり浮かれているのかもしれない。
そんな一言に「どうした?」と優しく促されて、俺は覚悟を決めて言った。
「体調が戻られたら、遠征のお話を聞かせてほしいです!」
思ったより大きな声になってしまった。
頼嗣様も驚いた顔をしている。
何もおっしゃらないので、変な間が出来てしまって、俺は焦りが最高潮に達した。
「ゆ、夕食の時間だけじゃ足りないと思うので、できればお休みの日にお茶とかしながら…」
しまった。
これは言うつもりはなかったのに…
変な間が出来てしまったせいで、思わず口走ってしまった。
「わざわざ茶まで準備するのか?」
ひんやりとした声で言われてしまい、俺は冷水を浴びせられたように背筋が凍り付いた。
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