11 / 50

11 とある給仕係の話

給仕係 視点 わああああ、やってしまった!! 目の前で暗い表情をする奥様を見て、死ぬほど後悔する。 奥様に自信をつけようと思って言った言葉が逆に奥様を傷つけてしまったらしい。 今まで、少しも結婚やお付き合いの話を持ち込まなかった旦那様に、本家のご両親がせっついていたのは本当のこと。 それでも、5年近くはその小言を無視していたのに 急に先月、婚約者を連れてくるとおっしゃった。 もちろん、屋敷中では大パニックだ。 あまりに結婚なさらないから、実はお屋敷の中に意中の相手がいて、身分違いのために公表できないのでは!?と噂になっていたから、 Ωや女性の使用人たちは阿鼻叫喚だった。 泣き崩れるもの、相手は誰よと怒り出すもの、モチベがなくなったと傷心するもの… そんな者たちの期待や羨望を背負っていらしたのが松乃様だった。 Ωらしい、小さくて可愛い…、風貌とは正反対の、慎ましやかなお顔の方がいらした。 もちろん、体格はαやβと比べれば控えめだったけども、Ωの中ではそれほど華奢とは言えない気がする。 最初は「所詮、政略結婚か」と誰しもが思った。 勿論、この私も。 しかし、日を追うごとに、自分のスケジュールを一切崩さない旦那様が、 奥様との夕食は必ず時間を合わせるし、 遠征も奥様が屋敷に慣れるまではいかないとおっしゃったし、 お庭の一角を畑として奥様にあげるし、 旦那様なりに、愛情をお持ちなのでは?と思い直した。 そして何より、奥様と話されるあのお顔。 あんな自然な笑顔は、旦那様を幼少期より存じ上げておりますが、初めて見ました。 苦節30年、私、大変感激いたしました。 しかしながら、このクソデカ感情を奥様にすべてお話しすることが出来ず、かいつまんで話したつもりでしたが…、あらぬ誤解を生んでしまった… どうしよう。 これでご夫婦の仲に亀裂が入ってしまったら、私のせい!? は、早く誤解を解かないと! 奥様は依然、暗い表情のまま「ご馳走様でした」と言い、とぼとぼと自室に戻ろうとしている。 「奥様!本当に、旦那様は奥様をっ」 「平気です」 そう遮ると、痛々しげに微笑んで、奥様はダイニングの扉を閉めた。 「おやすみなさい」と小さい声で呟きながら。 ああ…、何てことをしてしまったのでしょう。 旦那様より、植物を愛する心優しい方だとお聞きしていたのに… 海にでも飛び込んでしまいたい。

ともだちにシェアしよう!