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12 気まずい夕食
翌日、ぼーっとしながら食事をし、本を読んでみるけど目が全然文字を追えなくて、畑に出た。
しかし、水をやってしまうと何も手をかける必要がないので、畑を眺めて日中を過ごした。
頼嗣様は夕食は食べるのだろうか。
昨日はだいぶ体調が悪そうだったし…
いつもの時間にダイニングルームの席に着く。
30分すぎても頼嗣様は現れず、俺は料理が冷めるのも悪いので、渋々手を合わせて先にいただくことにした。
でも、顔を合わせなくて良かったのかも。
あの給仕係から言われた言葉を思い出して、ぎこちない感じになるかも。
メインの料理はあの給仕係が持ってきた。
「あのっ、奥様!昨日のことなのですがっ」
と、彼女が言いかけたところで、扉が開き、頼嗣様がいらっしゃった。
「あっ…、失礼します」
給仕係が何か言おうとしていたが、俺たちの顔を交互に見ると下がっていった。
「頼嗣様、申し訳ございません。お先にいただいていました」
俺が持っていたフォークとナイフを置くと、頼嗣様は「いや、構わない。遅れてすまないな」と向かいの席に座った。
先ほどのとは別の給仕係が頼嗣様の料理を運んでくる。
「何の話をしていたんだ?」
「えっ…、いえ、お聞きする前に下がってしまったので」
「…、そうか」
そこで沈黙が生まれる。
俺はキョロキョロと視線を泳がせた。
「今日はだいぶ顔色が良くなられましたね」
それで、そういうと、頼嗣様は「お陰様でな。昨日の話だが…、明日なら時間が取れる」と言った。
「えっ…、あ、その、無理なさらないでください。俺の言ったことは全然、気にしないで大丈夫てす」
「私とお茶を飲むのは本当は嫌だったってことか?」
心なしか、頼嗣様の声が低くなった。
「違います!でも、俺のわがままに付き合わせてしまうのが申し訳ないですし…、それに、頼嗣様に何のメリットもない」
「わがままだなんて思わないし、わがままを聞き合うのが夫婦だろう」
「それは…」
それは、形だけの夫婦でも、そうなのだろうか?
政略結婚なら、相手に負担をかけてまで、形通りにしてもらう必要はないだろう。
俺が口籠もっていると
「分かった。明日は無しにしよう。
松乃の都合がいい時に誘ってくれ。
都合を合わせるようにする」
と、頼嗣様が言い、ため息をついた。
こんな顔させるなら、昨日提案しなきゃ良かった。
俺があんなこと言わなければ、こんな空気にならなかったのに。
「はい」と俺は声を絞り出し、俯いた。
手付かずのメインの料理を食べる気が起きない。
かちゃかちゃと静かに頼嗣様だけのお皿とフォークが当たる音が響く。
「今日の料理、苦手だったか?」
少しして、頼嗣様に声をかけられた。
「い、いえ、美味しそうです」
声が上擦ってしまう。
「そうか…、無理せずに残していいからな」
「いえ、食べられます」
俺はノロノロとフォークとナイフを動かし、美味しそうなお肉を切る。
口に放り込むとそれは美味しいのに、なぜが何度噛んでも口に残る気がした。
切って、噛んで、飲み込む を機械的に繰り返して何とかメインを食べ終える。
デザートや食後の一杯までこの空気に耐えきれる気がしなくて、俺は「申し訳ございません、今日はお先に失礼します」と席をたった。
「…、そうか」
頼嗣様が寂しそうなお顔をしている気がする。
けど、そんなわけないので俺は「おやすみなさい」と告げてダイニングルームを出た。
明日からの夕食が少し嫌になってしまった。
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