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13 嫁の初仕事
次の日の夕食の時間。
こなければいいと思っていたけれど、
ちゃんと時間は進む。
今日も俺が先について、緊張しながら席に着いて頼嗣様を待つ。
いつも通りの時間に頼嗣様が現れた。
俺と目が合うと、少し表情を和らげた気がした。
前菜が届き、無言で「どうしよう」と思いながらつついていると、
「私の部屋から畑が見えるが、かなり精を出しているみたいだな」
と、声をかけられた。
「は、はい。あ、南瓜も植えたので、上手くできたら夕食に出していただこうかと思っています」
「それは楽しみだ」
頼嗣様が昨日のことはまるで気にしていないように話しかけてくれて、人に飢えていた俺は訊かれたこと以上に話してしまった。
実家では避けられていたし、前の夫は俺が饒舌に話していたとき、「妻の役目も果たせないのに口だけは回るな」と嫌味を言われたので口をつぐんでいた。
でも、頼嗣様は、興味のない畑の話や植物の話をしても、ちゃんと聞いてくれる。
お顔は相変わらず無表情だけど、相槌も打ってくれる。
だから話しすぎてしまうんだけど。
そんなふうに、特に変わりもせずにまた1ヶ月ほど過ごした。
お茶をする話は、もう忘れているだろう。
とある日の夕食前、2人が揃っても料理が運ばれず、不思議に思っていると、頼嗣様が重く口を開いた。
「私の両親から、結婚式をしない分、披露宴は開催するようにと言われた」
「披露宴…?」
「規模も控えめにするから、全面的に春日井で決めさせて欲しいと…。
松乃が嫌なら私から断るが」
俺の強い希望で、俺たちの結婚式はなしにしてもらった。
案外すんなりと受け入れられたため、そりゃ春日井家もバツイチのΩと結婚したなんて、言いふらしたくないだろうと思った。
が…
名家ともなると、付き合いもあるし、書面や手紙だけで「息子が結婚しました」は通らなかったようだ。
俺のわがままを聞いてもらった分、それは受けるしか無いだろう。
「いえ、俺は大丈夫です。
ですが、俺なんかと結婚したと世間様に公表して良いのでしょうか」
「なにがだ?」
「だって…、俺は傷物だし」
「松乃であろうと私の妻をバカにするのは許さない」
「…、あっ…、申し訳ございません!」
まるで俺と結婚した頼嗣様を下げているような発言であったことに思い至った。
「松乃は自分を卑下しすぎている節がある。
春日井になるのだから、少しは自信を持て」
「…、はい。せめて恥にはならないように気をつけます」
「そういうところなんだが…」
「申し訳ございません」
何度謝ったか分からない。
おずおずと顔をあげて確認すると、頼嗣様は厳しいことを言っていたが怒ってはいないようだ。
ほっと息をつく。
披露宴までに、少しでも頼嗣様に恥をかかせないような妻にならなきゃ。
形だけの夫婦なんだから、せめて形だけは良くしなきゃ。
「披露宴に向けて、日中も相談することが増えるだろう。松乃は忙しく無いか?」
「はい。俺はいつも暇なので、頼嗣様の時間がある時にお呼びいただければ」
「そうか。ちなみに披露宴は来月の10日だ」
「そうですか。…、ゑ?」
「早速明日から、相談させてもらう。会場や招待状なんかは、うちの実家に任せていい。
私たちは私たちの準備を進めよう」
「ま、待ってください!今日はもう月末ですよ!?」
「そうだな。あと2週間だ」
「そんな…、心の準備がっ」
「式を挙げるわけじゃないから、そんなに固くなることはない。
松乃のまま参加してくれればいい」
「ひ、ひぇぇ」
話し合いが終わったと判断したのか、料理が運ばれてきた。
いつかぶりに味のしない夕食になった。
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