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15 披露宴当日

結婚式ではないので、夫婦の入場などはなく、 俺と頼嗣様は次々に来場するお客様に ご挨拶をする形式になった。 開場するのを待つために、お互い身支度を完璧にして会場で待つ。 頼嗣様のご両親も既に会場にいて、俺や頼嗣様の衣装を褒めていた。 俺の両親は来ないらしい。 まあ、想定内だけど…、少し悲しい。 「緊張しているのか?」 俺が入り口のドアを凝視して固まっていると、隣にいた頼嗣様が声をかけてくれた。 「そ、それはもちろんそうです。 見てください、足が震えてます」 俺が自分の膝に目を落とすと、本当に膝が震えている。 俺の視線を辿ったのか、それに気づいた頼嗣様はふっと息を漏らした。 「自分より緊張している人を見ると、和らぐな」 「もっと緊張していただいて構いませんよ」 「いや、遠慮しておこう。 松乃…、よく似合っている」 松乃、と不意に呼ばれて頼嗣様を見上げると、頼嗣様は俺を褒めながら髪の毛を耳にかけてくれた。 触れた頼嗣様の指先と近づいた顔、褒め言葉…、全てに俺の顔に熱が集まるのを感じた。 「なっ…、へぁっ??」 困惑してワタワタしていると、今度こそ笑っていると分かるくらいの声量で、頼嗣様はふふっと声を漏らした。 この人っ、自分の容姿を分かった上で俺を揶揄っている! これからお客様が来るというのに信じられない! 「急に触るのダメです」 「…、夫婦なのにか?」 「それは…、そうですけど、ダメです。 とにかく、今日は絶対ダメです」 俺がムキになって言うと、頼嗣様は少ししゅんとした後に「明日以降については話し合いが必要だな」と言った。 話し合いも何も、俺たちに触れ合いは必要ないだろう。 今日の披露宴だって、形式上なんだから。 そんな夫婦を遠くから、もっと歴史の長いα夫婦が微笑ましそうに眺めていた。 最低限の規模で、との開催だったけれど、 春日井家ともなるのそれなりの人数だった。 今、何人目だろうと思いながら、 頼嗣様が紹介している横で頭を下げる。 基本的にはあまり俺については突っ込まれないけれど、やはり「何故この人なのですか?」という雰囲気は感じる。 とはいえ、ストレートに聞いてくる人はいないので、頼嗣様もノータッチだし、俺も俺と結婚した建前上の理由がわからない。 まさか、「結婚しろと親がうるさくて、子作りだの恋愛だの、面倒がない相手がこいつだった」とは世間には言わないだろうし。 ざっと20回以上は挨拶をしたと思う。 頼嗣様が「これで、一旦、必要なところは終わった。あとは私1人で大丈夫だから、松乃はどこかで休憩するか?」と声をかけてくれた。 本来なら、「俺も行きます」と言うところだろうが、慣れない革靴で俺の足はヒリヒリのズキズキだった。 それに、なんとなく俺がいると不都合がある人達への挨拶かもしれないと思った。 それで、「それでは…、あそこでおやすみしてよろしいですか?」と椅子が準備されているエリアを指差した。 「ああ。すぐに戻るからあそこから動かないように。それと…、誰かに何か言われても気にしないように」 と言われた。 あまり意図はわからなかったが、頼嗣様が戻るまであそこにいれば問題ないだろうと思い、うなづいた。 早速、頼嗣様は颯爽とどこかへ歩いていった。 俺は少し息をつくと、椅子に座る。 ああ、まだ序盤なのにだいぶ疲れた。 立食形式のパーティーになるが、あと30分後に俺たちの紹介や春日井家からの一言などが組み込まれたセレモニーが入る。 俺が話すことはないけれども、それでもみんなからよく見える場所で、頼嗣様と一緒に立ってなくてはならない。 品の良さそうな笑みを讃えて。 それを見越して、今のうちに少しでも気を緩めておこう。

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