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16 令嬢たちからの視線

椅子に座って会場を見渡すと、格式の高そうなおじ様やマダムがいる中、俺や頼嗣様と同世代くらいの若い女性やΩも多いことに気が付いた。 皆、俺に負けないくらい素敵な衣装を身にまとっている。 顔は…、もちろん、ほかのゲストの方々の方が華やかで美しい。 社交会などに久々に出たから忘れかけていたけれど、俺はどう見てもΩには見えない平凡顔すぎる。 貴族の中では位は低いけれど、それでも一応は貴族だ。 だが、平民のような服を着れば、どう見ても平民にしか見えないだろう。 いくら政略結婚とはいえ、もう少しマシな相手などいくらでもいるだろうに… 「ほんっと、どうして春日井様のような方がどうしてあんなΩと?」 「ご子息様の方から婚約を申し込んだなんておっしゃってますけど、あのΩがそう言わせているに決まってますわ!」 「あ…、あの、聞こえますよ?」 声の下方向に目を向けると、こちらを睨む麗しい女性が2人と、オロオロするこれまた美人な女性が1人が輪になって話していた。 「聞かせているんですわ」 「こうでもしないと分からないに決まってます」 「で、ですが…」 「見た目も悪ければ、離婚歴アリだなんて条件も最悪なのに、春日井家に取り入ろうだなんて、性格も最悪ですわ」 「しかも、ヒートがないって(笑)」 「お待ちください。いくらなんでもお体の事はっ」 3人目の女性が可哀想なくらい、慌てている。 でも、俺にはすべてが本当の事だから何も言い返せない。 俺が「頼嗣様から結婚を申し出たように言え」は嘘だけど。 先ほどの挨拶回りの時に「なれそめは?」や「ご離婚されて1年経たずというのは…」と聞かれたときに、頼嗣様は「社交会でお見掛けして一目惚れしたんです」とか「どうしても松乃と結婚したくて、傷心中のところを猛アプローチしたんです」とか答えていた。 おそらく、それ以上言及されないための嘘であろうことが、相手にも伝わったのだろう。 こちらに罵詈雑言はしっかりと聞こえているが、直接言っているわけではないため、何も言えずに俯いて握りしめた手を見つめる。 「頼嗣が選んだ相手を侮辱することは春日井への不敬だろ」 先ほどの女性たちの声より大きい声が聞こえ、その声の主が俺の隣に座った気配がした。 驚いて顔を上げると、先ほど挨拶した方々の中にいた、三井家の次男と紹介された男性だった。 三井家といえば、春日井に並ぶ有名財閥だ。 声の主がだれか分かったのか、3人は蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。 オロオロしていた子だけは、なにか言いたげな顔をしていたが、ぺこりと頭を下げると二人についていった。 「あ、あの、ありがとうございます」 俺の隣に座ったまま動かない男に頭を下げる。 「全然。主役の悪口言うなら、参加するなって話だよなぁ。 …、ところでさ、君にヒートが来ないって本当なの?」 「え?」 真意を測りかねて、男の目を見る。 ふざけたり、揶揄ったり、しているようには見えないけれど、気に障る質問であることに変わりはない。 「…、プライベートなことですので」 「その様子だと、本当みたいだね。」 俺がはぐらかそうとすると、男はふっと笑った。 「そこで、僕から提案があるんだけれど、 頼嗣の竿を貸してもらえないだろうか」 サオヲカシテモラエナイダロウカ 「…は?」 頭の中で反芻しても、何を言っているのかわからない。 サオ?さお?竿? 頼嗣様の竿??? いや、まさかそんな下品なことを三井家のご子息が言うわけない。

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