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17 変な提案
「竿とは、釣りか何かの話でしょうか?」
「頼嗣が釣りなんかするわけないじゃん。
竿っていうのはペニs」
「わぁー!!!何おっしゃってるんですか!?」
「しーっ。静かに」
そう咎められて口に手を当てる。
が、悪いのはどう考えても公衆の場でこんなことを言う男だろう。
「そもそも、貸すとはどういうことですか」
「そのまんまの意味だけど。
僕、βだけど一度でいいから頼嗣みたいな高位のαに掘られてみたいんだよね」
「ほ……、それは別に個人の嗜好ですので構わないと思いますが、なぜ俺に訊くんですか」
「そりゃ、最終的には頼嗣に許可をもらうけど、もう既婚者だし、いったんは嫁に訊いておかないと不貞になるだろう。
でも、その嫁と性欲発散できないだなんて、頼嗣も可哀想じゃん」
「それはそうかもしれませんが…、でも、俺にとっては最後の結婚なので、俺から離婚を持ち出すことはないです。
なので、頼嗣様に直接聞いてください」
そう言った後に目の前のこの男と、頼嗣様が絡み合う姿を思い浮かべて、胸がギュッと痛んだ。
でも…、性欲は誰しもある。
俺にそういう相手が出来ない場合、ほかで発散して貰うしかないのだから、それをダメだという権利はない。
「…、ふーん。じゃあ、今度頼嗣に会ったら訊いてみるわ。
ありがとうな、嫁ちゃん」
三井様を見上げると、彼は不敵そうに微笑んでいた。
彼は、試しに抱いてもらうと言っていたが、本当は頼嗣様の事を好きなのかもしれない。
ぐっと奥歯を嚙みしめて、彼を見上げる。
そうでもしないと「嫌だ」という言葉と涙が出てしまいそうだった。
「松乃、待たせたな」
後ろから声がして、振り返ると頼嗣様が戻って来た。
「お前は…」
俺の向かいにいる人物を目にとめると、頼嗣様の表情が曇ったような気がした。
「頼嗣~、丁度良かった。
こっちから出向く手間が省けた」
ああ…、今この場で先ほどの提案をするつもりなのだろう。
きっと頼嗣様は肯定する。
そしたら俺は、笑って身を引くことが出来るだろうか。
せっかく、少しお化粧をしていただいた頬に熱い涙が伝った。
まずい、と思って咄嗟に、頼嗣様から顔を逸らしたが、気づかれてしまった。
「松乃っ?!どうした」
頼嗣様が、俺の肩を掴み、逸らした顔を覗き込もうとしてくる。
頑なに顔を上げない俺に痺れを切らしたのか、頼嗣様が俺を抱きしめた。
何故か頭の冷静な部分で、このままでは衣装に俺の涙や化粧がついてしまうと思い、手で頼嗣様を押し返そうとしたが、それより強い力で防がれてしまい、無事、俺の顔面は頼嗣様の素敵な衣装の胸あたりに着地した。
「三井、お前か?」
「ちょ、違うし、怖いって。僕たちの仲じゃん。
僕は、松乃ちゃんに頼嗣に抱かれたいって言っただけ」
「お前が、私に…?」
「そう。俺、1回でいいから、αに掘られてみたいんだよね」
「断る。
そもそも、私には妻がいるのだから、他をあたってくれ」
「上位のαがいいんだもん。
それに、松乃ちゃんはいいよって言った」
その言葉に、頼嗣様の腕がピクリと動いた。
「松乃が?…、許可したのか?」
明確に俺に問いているのが分かった。
声を出したら嗚咽が漏れそうで怖かったので、控えめに頭を振って頷く。
「はぁ…」と頼嗣様の盛大なため息が聞こえた。
「三井、悪いが俺は松乃にしか興味がない。
もう一度しか言わないが、断る。
そして、妻には少しお説教が必要なようなので、席を外させてもらう」
「はーい。どうせこうなるだろうと思ってたし」
三井様のつまらなそうな声が聞こえたと思ったら、俺の足が浮いた。
頼嗣様に抱えられている!?
「えっ!?なんでっ…、頼嗣様!?」
「聞こえなかったか?お説教だ」
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