18 / 50
18 お説教とは?
「あのっ、俺、自分で歩けます」
と言ってみたが、「少し大人しくしなさい」とぴしゃりと言われ、黙るしかなかった。
顔を頼嗣様の肩に埋めていて見えはしないけれど、会場中の視線を感じる。
大人しくした方が身のためだ。
「頼嗣、どこへ行くの?
松乃さん、どうかしたの?」
お義母様の声が聞こえる。
顔を上げようとしたが、頼嗣様の手で制される。
俺の頭なんかすっぽりと収まってしまうくらい、しっかりとした大きな手で。
「気分が悪くなってしまったようなので、部屋に連れていく。
父さんには申し訳ないが、セレモニーの時間を10分だけ後ろにずらしてほしい」
「わかったわ。
松乃さん、無理しないで休んでいてね」
お義母様のねぎらうような言葉に、「申し訳ございません」と答えた。
肩に顔を押し付けられているので不明瞭な声だったかもしれない。
頼嗣様に揺られること、数分。
俺はどこかの部屋のふかふかのデカいベッドの上に降ろされた。
「頼嗣様っ、あのっ…、申し訳ございません。
俺、セレモニーにはちゃんと出られますから」
俺をベッドに降ろしたあと、その前に膝をついて俺と視線を合わせている頼嗣様の手を掴んだ。
「そんな赤い目でか?」
「うっ…、皆の前に出るまでに冷やして…」
「それに、私が謝ってほしいのは泣いたことじゃない。
私に三井を抱かせようとしたことだ。
嫁に売られるだなんて、ショックだ。
自惚れじゃなければ、泣くほど嫌だったんじゃないのか?」
「だって…、俺は不能だし、でも、頼嗣様にもよ…、欲はあるだろうし、俺なんかが制限していいことじゃないと思ったので。
でも、三井様と抱き合う頼嗣様を想像したら、嫌でした」
止めていた涙がまた溢れだした。
三井様はβらしいけれど、俺なんかよりずっと整った顔をしていて、俺なんかよりも頼嗣様に見合っている。
お家柄も凄いし…
頼嗣様がそっと俺の頬に手を当て、反対の手でハンカチを持ち涙を拭いてくれる。
「泣かないでくれ、松乃。
松乃が想像しているようなことを三井とする気はない。
そもそも、あいつを抱くだなんて気色が悪すぎるから、想像でもそんなことを考えるのはやめてくれ。
私は好きな相手以外は抱けない」
頼嗣様の手が優しく触れるので涙は収まってきた。
が、手が離れる様子はない。
好きになった相手しか抱けない…
頼嗣様は俺を抱こうとはしなかった。
この2ヶ月半の間、ずっと。
不能かどうかの確認すらされたことはない。
つまり、当たり前だけど、俺のことは好きじゃないと再確認した。
ともだちにシェアしよう!