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18 お説教とは?

「あのっ、俺、自分で歩けます」 と言ってみたが、「少し大人しくしなさい」とぴしゃりと言われ、黙るしかなかった。 顔を頼嗣様の肩に埋めていて見えはしないけれど、会場中の視線を感じる。 大人しくした方が身のためだ。 「頼嗣、どこへ行くの? 松乃さん、どうかしたの?」 お義母様の声が聞こえる。 顔を上げようとしたが、頼嗣様の手で制される。 俺の頭なんかすっぽりと収まってしまうくらい、しっかりとした大きな手で。 「気分が悪くなってしまったようなので、部屋に連れていく。 父さんには申し訳ないが、セレモニーの時間を10分だけ後ろにずらしてほしい」 「わかったわ。 松乃さん、無理しないで休んでいてね」 お義母様のねぎらうような言葉に、「申し訳ございません」と答えた。 肩に顔を押し付けられているので不明瞭な声だったかもしれない。 頼嗣様に揺られること、数分。 俺はどこかの部屋のふかふかのデカいベッドの上に降ろされた。 「頼嗣様っ、あのっ…、申し訳ございません。 俺、セレモニーにはちゃんと出られますから」 俺をベッドに降ろしたあと、その前に膝をついて俺と視線を合わせている頼嗣様の手を掴んだ。 「そんな赤い目でか?」 「うっ…、皆の前に出るまでに冷やして…」 「それに、私が謝ってほしいのは泣いたことじゃない。 私に三井を抱かせようとしたことだ。 嫁に売られるだなんて、ショックだ。 自惚れじゃなければ、泣くほど嫌だったんじゃないのか?」 「だって…、俺は不能だし、でも、頼嗣様にもよ…、欲はあるだろうし、俺なんかが制限していいことじゃないと思ったので。 でも、三井様と抱き合う頼嗣様を想像したら、嫌でした」 止めていた涙がまた溢れだした。 三井様はβらしいけれど、俺なんかよりずっと整った顔をしていて、俺なんかよりも頼嗣様に見合っている。 お家柄も凄いし… 頼嗣様がそっと俺の頬に手を当て、反対の手でハンカチを持ち涙を拭いてくれる。 「泣かないでくれ、松乃。 松乃が想像しているようなことを三井とする気はない。 そもそも、あいつを抱くだなんて気色が悪すぎるから、想像でもそんなことを考えるのはやめてくれ。 私は好きな相手以外は抱けない」 頼嗣様の手が優しく触れるので涙は収まってきた。 が、手が離れる様子はない。 好きになった相手しか抱けない… 頼嗣様は俺を抱こうとはしなかった。 この2ヶ月半の間、ずっと。 不能かどうかの確認すらされたことはない。 つまり、当たり前だけど、俺のことは好きじゃないと再確認した。

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