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27 同行?
それから、花ちゃんはたまにお茶を飲みに来るようになった。
必ず、日中に来て、頼嗣様が帰るより早くに帰っていく。
だから、鉢合わせすることはないけれど、俺は頼嗣様との話題がそれしかないので、花ちゃんが来たことは全て筒抜けだ。
俺が楽しそうに花ちゃんの話をすると、頼嗣様は前よりも嬉しそうにそれを聞いている。
花ちゃんは美人だし、俺なんかの1人の話を聞くよりも、頼嗣様は嬉しいのかもしれない…
そう思うと、少しだけ夕食が喉に突っかかる。
そして今日は、話さなきゃいけないことがある。
「あの…、頼嗣様」
「どうした?そんな神妙な顔をして」
「えっと…、今日、花ちゃんとお茶をしたんですけど、今度、外でお買い物をすることになって…」
「それは良いことだな。私がなかなか松乃を外に連れて行けないから、楽しんでくると良い。
…、ところで、それは2人でか?」
「え、はい。俺と花ちゃんで」
「神田のところの従者とかはつかないのか?」
「花ちゃんも2人で、と言っていたので、おそらくそうだと思いますけど?」
俺がそう言うと、頼嗣様は少し難しそうな顔をして考えこんだ。
まさか…、反対されちゃうのかな…
「私も行こう」
「…、えっ?」
「Ωの松乃と女性の花さんの2人きりは、少し不安だ。
街の方は治安が悪い場所もあるらしいからな」
「…、花ちゃんに聞いてみます」
「…、悪いが私が同行できないなら、松乃を外に出すわけにはいかない。
2人に何かあったら私が困る」
「…、はい」
確かに俺では花ちゃんを守れないかもしれない。
それに、神田家の娘に何かあったら大変だ。
だけど、頼嗣様の貴重な時間を頂くのは申し訳なく感じるし、初めての外出が2人きりじゃなくて友達と3人というのに少しもやっとする。
俺と2人では出かけないのに、花ちゃんがいたら来てくれるってことなのかな…
「私が一緒だと嫌か?」
少し悲しそうな顔をして頼嗣様が言った。
「そ、そんなことはないです!頼嗣様とお出かけできるのは嬉しいですし…、花ちゃんに許可もらえるように言います」
「そうか…、私も楽しみにしている」
それは、花ちゃんと会うのが?…、と言いそうになり、きゅっと口をつぐんだ。
それを聞いて、肯定されたら辛いだけなのに。
3日後、花ちゃんが来たので、頼嗣様が同行したい話を伝えた。
「え!?春日井様、お忙しいのに大丈夫?」
「うん。俺と花ちゃんだけだと心配なんだって」
「へぇ〜。素敵な旦那様だね」
花ちゃんはニヤニヤしている。
…、花ちゃんも、頼嗣様のことが好きなのだろうか。
いや、たとえ好きじゃなくても、会ってしまうと頼嗣様を好きになってしまうのは当たり前だ。
すごくかっこいいし、優しいし、スペック高いし…、惚れない方が無理。
「花ちゃんが嫌なら断るけど」
「ううん。大丈夫だよ。私、春日井様と一緒にいる松乃ちゃんが見てみたいんだよね」
「え?」
「素敵な夫婦の様子を見るのが好きなんだ。
幸せそうで」
「…、俺たちはそういうのあまりないけど」
「ええ!?でも、ついてきてくれるって、そう言うことじゃん!ラブだよ、ラブ」
「ラ…?」
「ラブ!日本語で、愛」
「…、えっ!?愛なんかないよ!
変なこと言わないで」
「松乃ちゃん、真っ赤〜。可愛い!」
愛という単語に無条件に赤くなってしまった。
冷静に考えれば、そんなもの縁遠すぎて、赤くなるなんて自意識過剰すぎる。
それから、花ちゃんは帰るまで、何かにつけて俺を揶揄ってきた。
頼嗣様に、花ちゃんから許可されたことを言うと「良かった」と少し微笑んだ。
ズキリと胸を痛みが刺した。
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