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29 おまけ

30分くらい、俺だけが気まずい時間が過ぎ去り、馬車は街に着いた。 ずっと外出をさせてもらえなかったから、華やかで賑やかな街の様子を見ただけで、 俺の心はだいぶ晴れた。 晴れたのに… 馬車を降りる時、先に頼嗣様が降りて 入り口側に座っていた花ちゃんが次に降りた。 「きゃっ…」と少しよろけた花ちゃんを頼嗣様が咄嗟に支えた。 支えただけなのに、俺には抱き合っているようにしか見えなくて…、でも、すごくお似合いで… 「ごめんなさいっ、春日井様!ありがとうございます」 「いえ。うちの馬車は少し車高が高いので、慣れないとこうなりますよ。お気をつけて」 そんなふうに微笑みあってるのを見ないようにして、俺は馬車から降りた。 「松乃っ。降りる時は危ないから、私が支えられる時に降りてくれ」 「…、俺は男ですし、靴もぺたんこなので大丈夫です」 慌てた様子でこちらにきた頼嗣様からふいっと視線を逸らして言う。 俺…、すごく感じが悪い。 花ちゃんの表情が強張ったのが視界の端で見えた。 「さ、お茶に行きましょう。ね、花ちゃん」 俺は無理矢理、明るい声を出して歩き始めた。 「松乃、街にいる間は私の横から離れないように」 長い足ですぐに俺に追いついた頼嗣様が俺の腕を取り、組ませた。 まるで俺をエスコートしてるみたい。 嬉しい気持ちと心拍数が跳ね上がる。 気持ちが跳ねたのも束の間、 「そんなに早く歩いては、花さんがついていけなくなるぞ」と言われて、俺の心は直ぐに萎れた。 なんだ、花ちゃんのためか。 「んふふっ、頼嗣様と並ぶと松乃ちゃんの可愛さが引き立つね」 俺の横に並んだ花ちゃんが笑いかける。 「そんなこと…、ない」 俺が俯いて言うと、花ちゃんは「あるのに」と俺の頬をつついた。 ぐいっと腕を引かれて、俺は慌てて転ばないようにバランスをとった。 不思議に思って頼嗣様を見上げると、少し不機嫌そうな顔をしていた。 俺と腕組んでそんな仏頂面するなら、別に腕を離してくれて良いのに。 花ちゃんといる時はあんなに機嫌良さそうなのに。 俺はまたしゅんとして、それでも解けない腕にしがみついた。 「あ、ここです!2人で行きたいなって話してたお店!春日井様も、よろしいですか?」 「ああ、構わない。みたことのない店だな」 「最近、西洋からやってきた焼き菓子のお店らしいです。頼嗣様、甘いの大丈夫ですか?」 「いざとなったら、松乃に食べてもらおう」 「任せてください!」 俺は胸を張って言った。 お店の中も明るくて、インテリアが凝っており、お菓子が来る前から俺はテンションが上がっていた。 頼嗣様のお家も素敵だけれど、シンプルな感じだから、こんなふうにゴテゴテのインテリアが見られるのは新鮮だ。 「ランプもティーポットも素敵だよね。 西洋のものなのかな」 「だよね〜。買い付けたい…、けど、最近お洋服買いすぎて、お父様に怒られてしまうわ」 「…欲しいなら買い付けよう」 頼嗣様の一言で、一瞬間ができる。 どうして、花ちゃんのために頼嗣様が家具を買うの?とモヤっとしたけど、なんとか笑顔を作って言った。 「花ちゃんなら、こういう雰囲気のインテリア、似合いそうだもんね」 「えっ、うん。ありがとう。(いや、松乃ちゃんに春日井様が、買うってことでしょ?!)」 「松乃、今日は欲しいものがあったらなんでも言ってくれ」 「…、はい」 建前上、妻にも買わなきゃいけないもんね。 俺は花ちゃんへのプレゼントのついでなんだ。 気持ちが浮いたり沈んだり、なんかもう疲れてしまう。

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