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30 プレゼント

焼き菓子は美味しかった。 お茶もとても美味しくて、つい、店員さんに茶葉を聞いてしまった。 店頭で茶葉の販売もあるらしく、頼嗣様が俺にと買ってくれた。 「あの、すみません…」 「何故謝る?」 「あんなふうにお店の人に聞いたら、購入するしかないですよね。頼嗣様はそんなに興味がないのに…」 「そのお茶で一緒に家でお茶をすればいい。 それに、松乃が欲しいものは私が買いたい」 頼嗣様はそう言ってまた、俺と腕を組んだ。 「あのっ、腕も…、俺はちゃんと歩けるので、無理しなくてだいじょ…」 「そんなに嫌か?」 「え?」 「そんなに私と歩くのは嫌か?」 「ちがっ!違います…、けど…、頼嗣様が無理をしているのではないかと思って」 無理して、俺の夫役をしているように感じてしまう。 花ちゃんくらいしか見ている人がいないのに、夫婦を演じる必要も、好きでもない男と腕を組む必要もない。 「私は嫌だと思うことはしない…が、松乃が嫌なら控えよう」 するりと外されかけた腕を俺は掴んでいた。 「松乃?」 「あ、すみません」 謝りつつも、俺はなぜか手が離せなかった。 「ふっ」と声がして、俯いている俺の頭が優しく撫でられた。  俺が見上げる間も無く、頼嗣様が歩きだしたので慌てて俺も足を動かした。 「あ、見て見て!素敵なお洋服! あれなんか、松乃ちゃんに似合いそう!」 弾んだ声を出して、今まで黙っていた花ちゃんが走り出した。 「えっ、あ、花ちゃん!?はぐれちゃう! 頼嗣様、追いかけましょう?」 俺は腕を引っ張って、花ちゃんを追いかける。 少し踵が高い靴を履いて走り回る花ちゃんの体力に脱帽した。 街にある商品はどれも見たことがなくて、見て回るだけでも楽しかった。 花ちゃんは何個か購入していて、両手に袋を持って走り回っていたので、半分持とうとしたら、全て頼嗣様が持った。 「松乃も何かいるか?」と聞かれたけれど、手に入れたいほどのものはなく、買うにしても俺には手持ちがなくて、必然的に頼嗣様に買っていただくことになるので、断った。 日が落ちてきたので、俺たちはまた馬車に乗って帰路に着いた。 「疲れましたね〜。春日井様に荷物を持たせたなんてバレたら、お父様に怒られます」 「神田氏には言わないでおきます」 「ありがとうございます!」 そんなふうに話している2人を横目に、俺は窓の外を眺める。 夜には明かりが点いていて、それはそれで街全体が美しい景色に見えた。 楽しかった…、けど、自分の可愛げのなさを改めて感じた1日だった。 花ちゃんはすごく良い人で、俺なんかと仲良くしてくれる素敵な人なのに、俺は勝手に比べて落ち込んでいる。 家に着いてすぐに、花ちゃんはお迎えが来て、沢山の荷物を抱えて帰って行った。 帰り際、「今度は旦那さんと2人で行ってきなよ」と耳打ちされた。 「うん」と笑って言ったけど、そんな日が来ることはないと思う。 花ちゃんを見送り、玄関に入ると「松乃」と頼嗣様に呼ばれた。 振り返ると、小包を手渡された。 「開けてみてくれ」 言われるままに包みを解くと、中から繊細なデザインのブローチが出てきた。 「これは…、カボチャ?」 「ああ。松乃に似合うと思って。 嫌なら捨てるなり売るなり…」 「ありがとうございます!! 次はこれをつけてお出かけしたいです!」 しまった。 嬉しさのあまり、次なんて言ってしまった。 「ああ、次は私の前でこれをつけてくれ」 「…、はい!」 俺が元気に頷くと、頼嗣様はまた俺の頭を撫でて、自室に向かわれた。 その後ろ姿を見て、ブローチを見て、にんまりする。 カボチャの形のブローチなんて初めて見た。 よく見ると、高そうな宝石が散りばめられている。 これ、高そう… そう簡単に外でつけていい代物なんだろうか? 俺も自室に入ると、そっと柔らかい布で包んで、引き出しの中に入れた。 失くさないように。

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