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31 お気に入りの茶葉

今日は花ちゃんが家にくる日だ。 こないだ、手紙が来ていた。 『街で買い物しすぎて、しばらくお出かけ禁止令がでました。 来月の初めの土曜日には解けるので、早速午前中にお邪魔しますね!』 思わず微笑んで、『待ってるね』といった内容の手紙を返しておいた。 お父様からのお許しが出れば、今日は花ちゃんが来るだろう。 庭のかぼちゃには、もう実がなっている。 あと数日もすれば色がついて、収穫ができるだろう。 出来上がったら、春日井家の料理人にお願いをして美味しく調理して頂こう。 俺が調理したい話を頼嗣様にしたら、うちの料理長はαだし、もしも俺が怪我をしたら絶対に嫌なので、ダメだと言われた。 ちぇ… 信用がないなぁ でも、素人が調理して失敗するより、プロに美味しく作ってもらった方が南瓜も幸せだろう。 そうこうしている摺木さんがやってきて、花ちゃんが来たと言った。 久々に会う花ちゃんは、いつも通りキラキラの美人だった。 あの日に買った帽子をかぶっていた。 「久しぶり。帽子、とても素敵だね」 「ありがとう〜!馬車に乗ってお家に行くだけなのに、帽子は必要ないんだけど、お出かけできなかったからどうしても被りたくて!」 「似合っているんだから、いつ被ってもいい」 「んふふ。松乃ちゃんもそのブローチ、似合ってるよ」 「え?あ、ありがとう」 実は、俺もあれから出かける予定がなく(っていうか、頼嗣様を誘うなんて恐れ多くて出来ない)、 つけたくてうずうずしていたブローチを、今日つけてしまった。 「それ、あの時に春日井様がずっと見てたんだよね。やっぱり松乃ちゃんようだったか〜」 「え?」 「松乃ちゃんが別のところを見ている隙に、春日井様がこっそり買っているところも見た」 「そ、そうなんだ。気づかなかった」 っていうか、俺が鈍感すぎる。 でも、あの時は自分の中のモヤモヤと戦っていて、全然周りが見えてなかったし… 「いいなぁ。私も旦那様にサプライズプレゼントとか貰いたい〜。全部自分で買ったもんね」 「…、頼嗣様がなんでも買ってあげるって言ってたじゃん」 「ええ?あれは、私にじゃなくて、松乃ちゃんにってことだよ。鈍感さんだなぁ」 「いや…、花ちゃんにも言ってた」 「だとしても、友達の旦那さんからプレゼントなんて嬉しくないよ、むしろ迷惑」 なんて事言うんだろう。 迷惑だなんて、頼嗣様がいるところじゃなくて良かった。 3人の時に言われたら、地獄みたいな空気になってた。 「あ!そういえば、あの時に買った茶葉がたくさんあるから、俺、淹れてくるよ」 「え?」 「頼嗣様が、俺が淹れたお茶が1番美味しいって言ってたから!待ってて」 「ありがとう(…これ惚気だよね?)」 俺は給湯室に向かった。 特殊な茶葉らしく、すこしコツがいるのだ。 お店の人から直接聞いたのは俺だけだし、俺が淹れたほうが美味しいのは仕方のないことだ。 と、思いつつも丁寧にお茶を淹れる瞬間が、結構好きなのもある。 ゆっくりと茶具を温め、茶葉を蒸らしてお茶を淹れる。 日本茶では出ない、でも紅茶ほど赤くない、香ばしそうな檜皮色の液体が洗練された湯呑みに注がれる。 どちらかというと和風な味なので、ティーカップではなく湯呑みに淹れた。 お盆に乗せて運んでいると、客間から会話が聞こえた。 「…、それじゃあ、来週、一緒に街に行きましょう!」 「そうですね。予定を空けておきます。 あの噴水の前でいいですか?」 「はい。では、午の刻に(12時)」 「ええ。そろそろ、松乃が戻るので私は失礼します」 「一緒にお茶を飲まれれば良いじゃないですか」 「誘われるのを待っているので」 そういうと、2人の笑い合う声が聞こえ、頼嗣様が客間を出た音がした。

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