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33 頼嗣様のお召し物

夕食の時間になり、いつもと変わらない様子の頼嗣様。 どうするか散々悩んだ挙句、俺は口を開いた。 「あの…、来週、一緒に街に行きませんか?」 頼嗣様は驚いた顔で俺に目を向ける。 そんなに驚かれるとは思わず、俺も身を固くした。 「あ、ああ…、いや、来週は仕事がある。 せっかく松乃が誘ってくれたのに悪いな。 再来週…、は、誕生日だから、外で祝ってもいいが、せっかくなら家で祝いたいんだが…。 と、なると街に行くのはその次の週だと良いのだが」 やっぱり、嫁の俺よりも花ちゃんとの約束の方が大事だよな。 分かってはいたけど、笑えない。 「そう…、ですか。 気にしないでください。 そんなに毎週お忙しいんですね。 俺、誕生日を祝っていただけるだけで幸せなので、大丈夫です」 頼嗣様の顔が見られずに、メインのステーキをフォークで突きながら言った。 「いや、妻のために時間を割くのは当たり前のことだ。 3週間後は、松乃は都合が悪いか?」 「…、ええと、はい。 花ちゃんとの約束もありますので」 本当は嘘だ。 頼嗣様はお仕事の関係で、週に一度しかお休みがないが、花ちゃんも俺もこれといった仕事はなく、いつでも会える。 それに、この3週間も先に約束することはない。 けれど、俺のために時間を使わせるのは気が引けた。 花ちゃんと2人で街に行くなら、俺とだって行ったっていいだろう、とは会えなかった。 「そうか…。本当に悪いな。 また声をかけてくれ」 「はい」 本当に残念そうな声色に聞こえて、俺は頼嗣様を盗み見たが、いつも通りの無表情だ。 それ以降、それらに関する話はせずに1週間が経った。 花ちゃんも後ろめたいのか、遊びに来なかった。 今日は、2人が出かける日だ。 朝、いつも通り早めに目を覚まして、畑に水を撒く。 不意に玄関の戸が開く音がして、頼嗣様が出かけられたのだと気づいた。 街に行く時は畑の前の通りを通っていくので、俺は背の高い野菜の後ろに隠れて盗み見た。 俺は別に悪いことをしてないのに、泥棒にでもなった気分だ。 馬車の窓越しに見た頼嗣様は今日も美しかった。 いつもの仕事用のお召し物とは違い、俺の服と一緒に仕立てた服だ。 あの日、何着か仕立てたうちの、俺が1番頼嗣様に似合ってると思った服だった。 その服で、妻より先に他の女と出かけるなんて…、と思ったけども、俺にそんな権限はない。 痛む胸を抑えながら、俺は1日を鬱屈として過ごした。 長い長い1日だった。

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