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35 明け
すっきりとした朝を迎えた。
このスッキリ感には既視感がある。
ヒートが終わったのだ…
今だに頼嗣様の布団の上にいて、自分がどれほど失礼なことをしたのかに今気づいた。
どんな顔をして頼嗣様に会えば良いの…
俺は頭を抱えた。
しかし、勝手に自室に戻るのも違うよな。
一言、謝らなくては。
頼嗣様の香りがする布団にくるまりながら、うんうん唸っているとドアが開いた音がした。
布団から顔だけ出してそちらを見ると、お盆を持った頼嗣様がいた。
「起きたか。体はどうだ?」
「おはようございます。すっかり元気です。
ご迷惑をおかけしてすみません」
慌てて布団から出ようとすると、下半身に力が入らず、俺はへたり込んだ。
「すぐに起きあがろうとするな。
昨夜だって、日付が変わるまで交わっていたのだから、そう簡単には立ち上がれないだろう」
「そ…、そうなんですね」
記憶は朧げだったが、そんなことを言われて俺は恥ずかしくて死にそうだ。
「あの…、面倒を観てくださってありがとうございました」
「いや、夫としての務めだ。
しかし、ヒートが来そうなら言ってくれれば
外出なんかしなかった。
覚えてなかった私も悪いが、次回は念のため、事前に教えてもらえないだろうか」
頼嗣様がしゅんとした様子で言う。
そうは言われても、俺のシモの世話をさせるなんて、とんでもない。
「そんな…、そこまで俺の面倒を見ていただくわけには…」
「それじゃあ、誰がヒートの相手をするのだ」
「ええと…、自分で何とか」
「私の部屋で慰められたら、手を出さないわけにはいかないだろう」
「あ…、その節は本当にすみません。
もし叶うなら、部屋と部屋を繋ぐ扉に鍵を取り付けませんか?」
「私に抱かれるのは不本意か?」
「そんな!…、そんなわけないです」
事実、選ぶまでもなく、俺は頼嗣様が欲しくなった。
他の人なんて、選択肢にすらない。
でも、だからこそ…
嫌われたくない相手に、要らない負担をかけるのが嫌なのだ。
だって…、ヒート中の俺は、目も当てられないくらいに淫乱だ。
「…、悪いが、他のαを松乃に当てがうなんて冗談じゃない」
「当たり前です!頼嗣様以外に触れられたいなんて思いません」
「…、私だって松乃以外に触れたいなどとは思わない。
だから、次も私を呼べ」
口調は言い切りの強い表現だったが、表情は柔らかく、俺の頭をゆっくりと撫でてくれた。
昨日、遅くまで交わっていたのは本当のようで、その手つきに思わずウトウトとしてしまう。
「ふっ…、眠いか?
もう少し、私の部屋で休むといい」
「いえ…、戻ります…、と言いたいのですが…」
それ以上、口を動かすもの億劫だ。
俺は引きずられるように眠りに落ちた。
その間ずっと、頭に心地いい感覚があった。
大きな手で撫でられているような安心感が…
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