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38 誕生日の〆
「そろそろ、次に行かないか」
頼嗣様の声が聞こえて、俺たちは慌てて離れた。
花ちゃんはまだグスグスと鼻を鳴らしている。
「やだもう、頼嗣ったら」
ふふふっとお母様が上品に笑いながら、「じゃあ次は私ね」と言った。
お母様の付き人が、白くて長い箱を3つ持って来た。
何が入ってるんだろう?
「さ、見て見て!」
お母様がゆっくりと蓋を開けると、そこには綺麗な色と模様の着物が入っていた。
た、高そう〜〜
しかも、3着とも別々の色、デザインで、どれも高そうだった。
「披露宴の準備をしてて思ったけど、私、松乃ちゃんに服を見繕うのが楽しいみたいなの。
あの時は洋装だったけど、和装も見てみたくて〜。
ねぇ、当ててみましょう?」
そう言ってお母様が着物を取り出し、俺の肩にかける。
しっかりとした生地で、よく見たらキラキラと光を反射している。
「えっ…、とっても綺麗な布…」
「そうでしょ?華美すぎないから、さっぱりした顔立ちの松乃ちゃんに似合うと思って…
やだぁ〜!思ったとおり!似合うわ〜」
お母様がきゃっきゃっとはしゃいでいる。
こんな素敵な着物、俺なんかに似合うかな…
恐れ多いんだけど。
少し落ち着いた花ちゃんもそこに加わり、あれやこれやと意見を交わしている。
「松乃ちゃんって、白だとお上品に見えるし、赤とか濃い色だと華やかに見えるね」
「いい意味で、着物を映えさせるわよね」
こんなにジロジロ見られると、流石に顔見知りの2人でも恥ずかしい…
頼嗣様はというと、「和服とは盲点だったな。私も揃えて買うか…」となにやら思案していた。
頼嗣様、和服も確かに似合いそうだな。
選ぶ時はぜひ、俺にも選ばせて欲しいけど。
そして最後に、頼嗣様から指輪を贈られた。
本当は披露宴のセレモニーで渡す予定だったけど、タイミングを流して3ヶ月くらい引き出しの奥底に眠っていたらしい。
本当に申し訳ない。
「私がつけよう」と頼嗣様に言われ、俺は左手を差し出した。
形だけの夫婦のはずなのに、こんな高価なものを用意してもらって…、申し訳ない。
前の結婚の時は1ヶ月で離縁してしまったので、指輪なんてものはなかった。
一生、この指にリングが嵌ることなんてないと思っていたのに…、俺は幸運なんだろう。
「頼嗣様…、ありがとうございます。
大切にします」
いつか、頼嗣様が本当に婚約したい相手が見つかるかもしれない。
でも、そんな未来が来るまでの間は、せめてここで輝かせていたい。
「さて、贈り物タイムも終わったので、最後のメインイベントやりましょうか!」
花ちゃんの一言で、大きなケーキが運ばれてくる。
上に蝋燭が刺さっていた。
「なにこれ…」
「今どきのお誕生日は、ケーキに蝋燭を立てるんだよ!」
「そう…、なの?」
そもそものお祝いが10年以上ぶりなので、今時の誕生会がよく分からない。
言われるがまま、火を息で吹き消す。
そのあとは、カットされて1切れずつ配られた。
とっても大きなケーキだったので、残りは春日井家の従者たちで分けて食べるらしい。
なんだか、配られたみんなに誕生日を祝われた気分で嬉しかった。
「皆で食べる甘いもの、いいわね」
「ですよね!私と松乃ちゃんでよくお茶してるんですよ〜!
あ!お母様も、今度ご一緒にいかがです?」
「ええっ!?そんな若い子たちと一緒になんて、お邪魔じゃないかしら?」
「いえ!そんな!ぜひいらしてください」
と、俺は言った後に、そういえばここは俺の家というより、頼嗣様の家だったことを思い出して、そちらに視線をやる。
頼嗣様は「別に構わない」と言った。
「なによ〜。前までは、来るなって言ってたのに。じゃあ、お言葉に甘えて」
と、お母様が言った。
何でお母様が来るのが嫌だったんだろう。
俺1人だと、お母様が来るのは嫌だけど、花ちゃんが一緒なら良いということだろうか?
「花ちゃん、よく喋るから楽しみだわ〜」
そのお母様の一言で、心が重くなる。
そりゃ、平凡顔の静かな男より、華やかで元気な女の子とのほうが楽しいよね。
やっぱり、お母様は花ちゃんを気に入ったみたい。
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