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43 訪問者2

お医者さんに診てもらってから数日、俺は何の気力も湧かずにぼーっとする毎日。 それでも、草木は育つので、畑の管理だけは怠らずにやっていたけれど 花ちゃんやお母様には、体調が優れないので当分、お茶会は出来ませんと手紙を送った。 どちらからも心配の手紙が来たが、「すぐに良くなると思うから気にしないで」という曖昧な返事しかできずにいる。 今は2人に会うのは精神的にきつい。 頼嗣様もずっと心配をしてくださっているのか、毎日体調を聞いてくる。 体は元気なんだ… ヒートが来ないことを除けば。 まるまると実った南瓜を1つ、鋏で切り落とす。 ずっしりと思い。 俺は久々に嬉しさを感じた。 それを持ってキッチンに走る。 「柿田さん!!」 「む?おや、奥様ではないですか」 料理長の柿田さんに南瓜を差し出す。 「これ、初めて採れたんです! 料理に使えたりしないですかね? 頼嗣様が、南瓜が好きらしいんですけど」 「そうでしたか。 随分立派な南瓜ですね。 …、奥様が育てたのですか?」 「はい…。素人が作ったので、美味しいかは分からないのですが」 「いやいや、きっと美味しいでしょう。 こんなに身の詰まったピカピカした南瓜が美味しくないわけがないです。 それでは、今夜の食事にお出ししますね」 柿田さんが、俺が渡した南瓜を上下に振り、うんうんと頷いている。 「ありがとうございます!」 俺は嬉しくなって、頭を下げた後は小走りで自室に帰った。 少しでも、頼嗣様が喜んでくれるといいな。 土で汚れた手を洗い、鏡台の前に置いておいた指輪を嵌める。 烏滸がましいとは思ったけれど、少しでも自分が嫁であると言う確証が欲しくて、畑仕事の時以外はつけっぱなしにしている。 頼嗣様もずっと付けているみたい。 頼嗣様が堂々とつけている間は、離縁の話は出ないであろうと思っている。 次は、何の野菜が実るかなと畑を見渡していると、家を囲う塀の向こうから「松乃ちゃーん」と言う方が聞こえて、慌てて周りを見渡した。 塀の向こうからひょっこりと顔を覗かせている男がいた。 「え?ええ!?三井様!?」 「久しぶりー!」 そこに立たせとくのも悪いかと思い、俺はそちらに駆け寄った。 「え、えと、頼嗣様はお仕事で不在です」 「うん知ってる。俺、喉乾いちゃったなー」 「あ、えっと…、お茶でも飲まれますか?」 「いいの!?」まだ言い切る前に、食い気味に三井が身を乗り出した。 「あ、玄関は…」と誘導しようとすると、「お構いなく!」と言って、勝手に玄関に周り、俺の部屋までやってきた。 使用人がいたはずなんだけど、頼嗣様のご友人だからすんなりここまで入れたのだろうか? 俺は不思議に思いつつも、客室まで案内し、座ってもらった。 「お茶、淹れますね」 「お構いなくー」 三井はもう少し、自分の身の振り方に構った方がいいと思うんだけどな… まあ、無愛想な頼嗣様とご友人ができるのは、こういう厚顔なところがあるからだと思うけど。 お茶を出すと「松乃ちゃんが直々に淹れてくれたお茶、美味しいね」と褒められ、どう返していいかも分からず曖昧に笑い返した。 無言… っていうか、この人、何しにしたんだろう。 とはいえ、お客様にそんな失礼なこと聞けない。 静かに1人で本を読んでいたかったな… 「ふふっ、そんな気まずそうな顔しないでよ」 顔を上げると、三井がニヤニヤとこちらを見ていた。 「す、すみません。俺、顔に出やすいですよね」 「うん。いや、気まずくないですよ〜とか否定しないんだ」 悲しい、と三井が泣き真似をする。 この人の真意がいまいち掴めず、扱いに困ってしまう。 「三井様のような方と接したことがなくて…、すみません」 「なんかさ、松乃ちゃん、会うたびにどんどんやつれてない? 頼嗣となんかあった?」 俺は思わず顔を強張らせた。 この人の目的は、俺と頼嗣様の間を茶化すことか。 どうしよう… うまく答えないと、頼嗣様に迷惑がかかってしまう。

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