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44 気味が悪い人
うまく声が出ずに、視線だけを彷徨わせる。
三井はそんな俺の様子を面白そうに見ている。
この空間がもうストレスだ。
吐きそう…
「なにもっ、ないです」
本当に何もない。
何もなさすぎて不安になるくらい。
「ええ?そんな表情には見えないけど」
「三井様が面白がるようなことは何も…」
「面白がるだなんて酷いな〜。
俺は松乃ちゃんに興味があるんだよね。
あの頼嗣のお嫁さんだよ?
俺、すぐに離婚すると思ってたけど、続いてはいるじゃん?うまくいってるかは別としても」
そうは言われても、俺が口にできることは少ない。
曖昧に微笑んでおいた。
「ふむふむ…」
じろじろと今度は真顔で俺の顔を眺める。
こんなに人に見られることってないから、本当にしんどいんだけど…
「松乃ちゃんって地味な顔してると思ったんだけど、幸薄そうな感じは庇護欲を掻き立てるね」
「は、はぁ?」
なんか失礼なことを言われてる気がする。
けど、何を言ってるのかが分からず、生返事になった。
「こう言う感じが好きなわけね、ふーん。
俺、やっぱり興味あるなぁ。
松乃ちゃんが快楽に溺れる顔」
「…、かっ!?ないです!そんな顔しない!」
テキトーに聞き流していたけど、聞き捨てならない単語が聞こえて慌てる。
この人、人妻になんて事言うんだ。
「真っ赤〜!かわいいねぇ。
処女ってわけじゃないのにさ」
三井は腹を抱えて笑っている。
本当に揶揄いにきたんだ、この人。
思わずムッとする。
「とにかく、俺は結構プラトニックって奴なので、そう言う話は期待できないですよ」
「プラトニックねぇ…
でも、生理的な欲求には敵わないじゃん。
ヒート来たんでしょ?」
なんだか、Ω性を馬鹿にされている気分。
お前らは性欲に敵わないんだろうって言われているような…
俺はムッとして「もう来ないと思います」と言い、言ってから後悔した。
「ええ!?なになに!?どういうこと!?」
絶対、余計にややこしくなるのに…
案の定、食いついて来た三井。
「…、元々、俺のヒートは不規則で、また今回も止まったってだけです。
俺の体感的に、もう来ない気がします」
今の精神的状態が続けば、止まったままだろう。
あるいは頼嗣様がαと再婚すれば、俺の心は擦り切れてヒートが完全になくなると思う。
どちらに転んでも、俺のストレスが今より良くなることはない。
つまり、ヒートが止まっている原因は解決しないのだ。
「じゃあ、番になれないじゃん。
子供も産めないし」
「…、そうなりますね」
「えー、頼嗣かわいそう!」
そんなことは俺が1番分かってる。
けれど、図星を突かれて俺は半泣きだった。
「わかってます!
だから、俺はいつ捨てられても大丈夫なように、心の準備はしてますっ」
「あー、ごめんごめん。泣かないでよ」
三井が狼狽えている。
乱雑に目を拭い、「泣いてません」と言った。
「だから、頼嗣様が俺以外の人を抱いても
俺は文句は言わないし、文句なんてないし…」
「物分かりのいい妻なんだね、よしよし」
いつの間にか隣に移動した三井が俺の頭を撫でる。
頼嗣様以外の男の手の感触に、鳥肌が立つ。
思わず、振り払った。
「やめてください」
キッと彼を睨み上げる。
Ωだからってバカにしてるのか?
捨てられそうで、不能なΩだからって…
「そうやって威嚇してくるところもいいね。
頼嗣のものなのが勿体無いくらいだ」
三井が俺の顎を掴もうとしてくるので、必死に抵抗する。
この人に触られるの、嫌だ。
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