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三井とそんな攻防を続けていると、諦めたのか、三井が止まった。 「あのっ」 失礼ですけど、もう帰ってくださいと言おうとしたら三井が割り込むように言った。 「こないだの社交会、松乃ちゃんは来てなかったけど、頼嗣は神田ちゃんと仲良さそうにしてたよ」 社交会…? 俺が行ったのはあの時のが最後だ。 それ以降、頼嗣様は1人で…、いや、花ちゃんと参加したのか? 確かに、2週間前くらいに1人で夕食を取った日があった。 あの時…? 「やっぱり知らなかったんだ。 松乃ちゃんも可哀想だね」 意地悪そうに三井が何かを言っているが、何も耳に入らない。 ショックで視界が揺れている。 一言、声をかけてくれればいいのに。 俺は「連れて行って」なんて我儘言わないのに。 眼球がどんどん熱くなってきて、慌てて唇を噛んだけれど間に合わず、また涙が零れ落ちた。 「なんだか松乃ちゃんの泣いた顔ばかり見てる気がするな」 三井が俺の頬にそっと触れてくる。 気持ち悪いけれど、振り払う気力も無かった。 「俺が…、もし、頼嗣様と離縁したら、平民としてやっていけますか?」 思わずそんな言葉がこぼれた。 「え?松乃ちゃんが? …、どうだろう。 Ωに平民暮らしは大変なんじゃない? Ωってばれたら娼館とかに売り飛ばされそう」 「娼館…」 その単語に背筋が凍る。 (最初の)婚約者にすら体を許せなかったのに、見ず知らずのお客さんとなんて… 「こんなに震えてしまって可哀想だね。 そうなったらうちに来るといいよ。 まあ、俺には婚約者がいるから愛人枠になるけど。 松乃ちゃんなら大歓迎だよ」 三井の…、愛人? やっぱり、俺なんて愛人くらいがせいぜいなんだろう。 娼婦にならないだけマシか。 でも、どうせ愛人に堕ちるなら、頼嗣様の愛人が良かった。 遠くないうちに来るであろう暗い未来に俺は打ちひしがれた。 手で顔を覆って、三井がいることなんて忘れて号泣していると、生暖かさに包まれた。 三井が覆いかぶさるように、俺に抱き着いている。 気持ち悪い。 振りほどきたい。 頼嗣様… ドタドタと忙しない足音が響き、客間の扉が乱暴に開かれた。 三井が「あ、不味い」と小さく呟くのが聞こえた。 「三井、私の妻に何をしている」 地を這うような頼嗣様の声が聞こえた。 頼嗣様のαの圧が強すぎて、生理的な震えが止まらない。怖い。 「ちょっ…、悪かったって! 何もしてないから、その圧を引っ込めろ」 三井が俺から離れて、気持ち悪さから解放される。 ふっと、圧が緩んだ瞬間に、俺は頼嗣様の香りに包まれていた。 「うぅ…」 自分の中で堰き止めていたものが、溢れ出すのがわかった。 俺は無我夢中で頼嗣様にしがみついて泣いた。 「三井…、2度とうちの敷居を跨ぐな」 「はいはい」 三井はそそくさと退室した。 「松乃ちゃんさ、思ってるよりも何でもは受け入れられないタイプだと思う。 だから、欲しいものは欲しいって言った方がいいんじゃない?」 去り際、そんな言葉を残して。 欲しいものは欲しいって言う? 俺ごときが? そんなこと…、できるわけが……

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