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46 南瓜
「俺が不在の間に他の男と逢瀬か?」
俺の背中をさすりながらも、頼嗣様は厳しい声で言った。
「違います!…、畑の様子を見てたら、三井…様がいたんです。
頼嗣様のご友人なので追い返すわけにもいかなくて」
「今後は追い返していい。
それに友人などではない」
「そう…、ですか」
ぐすぐすと鼻を啜っていたが、だんだんと落ち着いて来た。
「あの、もう大丈夫です」
俺を抱え込むようにして、背中をとんとんしてくれていた頼嗣様の胸を押す。
「私が大丈夫じゃない。
三井に何をされた?」
「何も…、されてません」
「何もされてないのに泣いたのか?」
「…」
三井に言われたことをそのまま言えるわけがない。
俺が黙っていると頼嗣様はため息をついて立ち上がった。
「あいつには話せて、私には話せないのか」
「…」
違う。
頼嗣様だから言えないのに。
「分かった。話せるようになったら話してくれ」
優しい言い方に俺はまた涙腺が緩む。
俺はこの人とちゃんと別れることが出来るのだろうか。
自室に戻ってぼーっとしていると、摺木さんが「夕食の時間ですが」と声をかけた。
「すみません。食欲がないので…」
そう言うと、いつも無表情な摺木さんが驚いた顔をした。
「いつもは食欲がなくても、食卓には着きますのに…、本当にご体調が悪いのですか?」
「えっと…、はい」
「そうですか。旦那様、悲しまれますね」
「…そうでしょうか」
思わず漏れ出てしまった。
摺木さんにこんな当たり方するなんて…、自分が情けない。
「そりゃそうですよ。夫婦なんですから。
よろしければ、お部屋にお持ちしますよ」
「ありがとうございます。
でも、本当に食べられそうにないです。
柿田さんに…」
「謝罪なら直接なさってください」
「あ、はい」
相変わらずの冷たい返しに、俺もすんとしてしまった。
変に気を使わないところに救われる。
摺木さんにまで優しくされたら、俺は泣いてしまう。
1時間くらいして、部屋のドアがノックされた。
誰だろう?
「はい?」
と答えると、扉から現れたのは頼嗣様だった。
「あっ…、お食事、残してしまって申し訳ございません」
「いや、いい。松乃だって体調が悪いことくらいあるだろう。
そうではなくて…」
「…はい?」
歯切れが悪そうに言い淀んでいる。
何かあったんだろうか…
「夕食に南瓜のスープが出た。
とても美味しかったから礼を言いに」
そういえば、今朝、持って行ったんだった。
色々ありすぎて忘れていた。
柿田さんがせっかく出してくれたのに…、申し訳ないことをしちゃったな。
「お口に合って良かったです。
柿田さん、美味しく調理してくださったんですね」
「それはそうだが…、南瓜そのものが美味しかったんだろう。ありがとう」
「いえ!そんな…」
謙遜しながらもまた涙腺が緩む。
冷たいってよく言われているそうだけれど、頼嗣様はとても優しいんだ。
「松乃?」
「いえっ…、なんでもありません」
泣きそうなのを堪えているんだから、そんなふうに覗き込まないでほしい。
ふっと頼嗣様が息を吐いた。
「そんなに私のことが嫌になってしまったか?」
俺は弾かれたように顔を上げた。
頼嗣様も泣きそうな顔をしている。
「違います!それは本当に違う…
でも、俺に優しくしないで下さい」
これ以上は手が離せなくなってしまう…
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