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47 一世一代の
「俺にこれ以上、優しくしないでください」
俺は意を決して言った。
が、頼嗣様はピンとこないようで首を傾げた。
「なぜだ?
たまに優しくして何が悪い。
それに私は特段優しくしているつもりはない」
え…?
無意識であれ?
やはり、頼嗣様は実は根っからの優しい人なんだ…
「これ以上優しくされたら、俺は頼嗣様から離れられなくなってしまいます」
「それの何が悪いんだ?
離すつもりもないが、松乃は私から離れる気なのか?」
「え?…、だって、俺たちはとりあえずの政略結婚ですし、頼嗣様は最近は花ちゃんとお噂になっていると…」
「何を馬鹿な!」
急な大声で怒鳴られて、俺は肩をすくめた。
俺に対して怒鳴り声をあげるのは初めてだ。
そんな俺の様子を見て、頼嗣様はハッとし「すまない」と謝った。
「花さんに関しては、全くもって事実無根だ。
そう言った気持ちは毛頭ない」
「だって…、3人で出かけた日も2人は楽しそうに話していたし、頼嗣様はこないだの社交会に俺ではなく花さんをお連れしたんでしょう?」
「違う。俺が花さんと盛り上がっていたのには松乃に似合う服や装飾品の話をしていたんだ。
松乃はあまり興味がないようだったからな。
社交会は黙っていて悪かったが、松乃の体調が思わしくなかったので連れて行かなかったんだ。三井やその他αの輩に、松乃が絡まれるのは嫌なんだ。
花さんといたのも、松乃の体調が心配だったらしく、訊かれたから答えていただけだ。
ほんの一瞬の様子を三井が見ていたんだな」
一息にそう告げると、頼嗣様はポカンとしている俺の顔を見て微笑んだ…、気がした。
「それにとりあえずの政略結婚なんかじゃない。
私は心底、松乃に心酔しているんだ」
俺の髪をすきながら、頼嗣様が言った。
俺に…、心酔している?
「ふっ…、私の一世一代の告白なんだが
松乃からは何かコメントは無いのか?」
「へっ…、えっ、だって!!
俺、そんなふうに好いてもらえるようなところ、一つもないです!
ましてや、頼嗣様のような完璧なαになんて」
「始まりは、君が初めて社交会に出た日だ。
随分と目を引く可愛らしいΩだと思った。
松乃は忘れたかもしれないが、私に挨拶までしたんだぞ?
ふわりと漂った松乃の香りに、私は運命だと思ったんだがな…
少し身分の差があったから、両親を説得している間に掻っ攫われてしまったんだ。
情けない話だ」
本当に情けなさそうに頼嗣様が眉を下げている。
頼嗣様が披露宴の挨拶の時に「俺に一目惚れした」と言い回っていたのは、本当のことだったってこと?
しかもそんなに昔から?
そう思った途端にぶわっと顔が熱くなった。
「ふっ、普通照れるのは私のほうだろう。
なぜ松乃が真っ赤になっているんだ」
「だ、だって…、そんなの、本当に俺のことが好きみたいじゃないですか」
俺が茶化すように言うと、頼嗣様は真顔になり、俺の頬に手を添えた。
「好きだ…、いや、一緒に暮らしてからはそんな言葉では足りない。
松乃を愛してしまっているんだ。
悪いがそう簡単には手放せない」
「うぁ…」
頼嗣様の完璧すぎる御尊顔で、真剣にそんなこと言われて照れない人はいないだろう。
俺には勿体なさすぎる話だ。
「俺っ、ヒートも止まってるし、その、閨事も下手だし、可愛くないし…
本当にいいんですか?」
「松乃との子が出来たら、それは大層可愛らしいだろうが、贅沢すぎるからな。
私には松乃がいればそれで良いんだ。
松乃を抱くことも好きだが、今更、他の誰かなど抱きたくもないんだ。
閨事もなくて構わない」
本当にどうして、こんなに完璧な人が俺なんかを好いているのか全く分からない。
が、これだけ言われて、ウダウダ言ってはいられないだろう。
「頼嗣様、そんな話を聞いてしまったら、俺はもうこの手を離せないです」
俺の頬に添えられた手を掴む。
「俺も頼嗣様が大好きです」
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