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第9話 サブクエストどうすんだ

メルサの言葉にラシエルは首を傾げる 「今朝言ったこと……?あぁ!」 ラシエルは今漸く思い出したかのように、声を上げた そしてすぐにメルサに続けて言う 「あれ、やっぱり無しでも良いかな?今日は都合悪くて」 「ハァ!?何言ってんの!?今日だからこそでしょ!信じられない!」 「ら、ラシエル!?」 正ヒロインが物凄く不当な扱いを受けている リュドリカはラシエルとメルサのやり取りを交互に目で追い、アタフタとするしか出来ない 「絶対来なさいよ!あとその怪しいヤツは連れて来ないで!」 メルサはあからさまに憤怒し、その場から立ち去る 俺は呆然と徐々に小さくなるメルサを見送り、一つのサブイベントを思い出した。 聖剣に選ばれし日、その日は希有なことにメルサの誕生日でもあった。 ラシエルが森に出かける前、メルサは自身の誕生日を祝う為に聖剣の眠ると言われる湖に、夜ホタルを見たいと言う。その日聖剣を見つけた勇者ラシエルがメルサと湖に向かう。そして運悪くそこで魔物が現れてラシエルは颯爽と魔物を倒して、旅立ちの前に正ヒロインであるメルサに君を一生守ると婚約を結ぶ ここは分岐があって友情を選ぶ事も出来る そのサブイベフラグを、勇者がハナから断ち切りやがった! 「ラシエル!!どうすんだよ!あの子めちゃくちゃ怒ってるぞ!?」 「うーん。メルサももう子供じゃないんだし、大丈夫ですよ」 勇者はニコリと微笑む。リュドリカは顔を引き攣らせた 「い、いや……」 誕生日を祝って欲しいからとかじゃ無いと思うぞ!? 聖剣が見つかれば直ちに勇者は城へ向かわなければいけなくなる。それを知っているからメルサはお前に気持ちを伝えようと…… もどかしくて変な事を口走りそうになる俺は、ただシドロモドロになりながら口出しする事が出来ずにいる 「……?リュドリカさん?」 それを見たラシエルが何を思ったのか、要らぬ気遣いを提案した  「あぁ、だいぶ村のみんなも出来上がって来てるし、居心地悪いでしょう?もう時間も遅いし、狭いけどあとは俺の家でゆっくりしませんか?」 「え、えぇ?」 あれよあれよと手を引かれて立ち上がる 途中でもう帰るのか?おヌシは主役なのに!だとか、もっと付き合えよラシエル!だとか兄ちゃん何でそんな大事なこと言わなかったのさ!だとかのゲームキャラたちの引き留めを一切無視してラシエルに家に連れ込まれる この言い方は少し誤解を招きそうだが、傍から見たらだいたいそんな感じだ 「なぁ、やっぱりさっきの子の所行った方が良いんじゃ……」 ラシエルの家に着き開口一番俺はそう言った サブイベの一つだとしてもこのイベントはエンディングを左右する重大なイベントの一つだし、何よりヒロインが気の毒だ しかし勇者はリュドリカの手を握る力を少し強めて無理に取り繕ったような笑顔で言う 「行くとしたら、どうしてもリュドリカさんにも付いてきて貰うことになります。でもメルサは貴方には来て欲しくないと言いました」 「それも……そうなんだよな……」 「なので仕方ないと思います。あまり気にしないで」 「うーん……」 俺はラシエルと繋ぐ手を見る こうやって勇者、もとい主人公とプレーヤーが触れていないと、ダメなんだよなぁ…… リュドリカは少し考えて、そしてハッと思いつく そのまま空いた手を頭に持っていき、無造作に髪を数本引き抜く 「……!?な、何を……」 抜いた髪をラシエルの手に持っていき、無理やり握らせる そしてリュドリカは、その手を放した 「えっ!ちょっ、………あれ?」 「あ~やっぱり。体の一部なら何でも良いのかなぁ」 リュドリカとラシエルの手が離れても尚、勇者ラシエルは動く事が出来た それは、プレーヤーの体の一部なら何が触れていても操作、オートーモードをする事が可能だという証拠だ 「そしたら俺の髪を数本抜いたのを瓶か何かに詰めて……いや絵面的にそんなのダメだ……勇者が人の髪の毛アイテムみたいに持ってるなんて……」 ブツブツと独り言を言うリュドリカを見て何かを察したのか、ラシエルは急に肩を掴んで向き合うように立ち合った 「なんでも良いなら、俺はこれがいいです」 「えっ?なに………んっ」 ラシエルは言うなり、前屈みになる うわ、勇者の顔近い。近くで見てもやっぱりイケメンだ。なんて呑気な事を考えている間に、何か柔らかいものが唇に触れる ソレが何なのかを脳が処理する前に、否応無しにまたソレはリュドリカの思考力を奪っていった

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