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第10話 勇者に初めて奪われました
「ンッ……んぅ!?」
キスだ。キスされてる。何で……
しかも、口の中に……舌まで入ってきた!?
なにこれ、何だこれ!?
初めて味わう感触に、驚きと動揺で反応が出来ずに固まってしまう。それを良いことに、ラシエルは遠慮なくリュドリカの口腔内を好きに犯した
「んッ!ちょ、ッは、……ッ、やめッ、んん、んぁ……」
チュパチュパと耳に直に響くいやらしい水音と、口内を蹂躙する生温かい舌が嫌でもディープキスさせられていると理解させる
「ふ…ッん、んぅ…ッは、ぁ…」
ぢゅうぢゅうと舌を吸われだらしなく開いた口内に唾液が溜まる
それをラシエルは一滴残らず吸い取り、喉を揺らした
の、飲んでんの!?俺のよだれ!?
「やっ、やめろって、ば!!」
ドンッ!と強くラシエルの身体を突き飛ばし、ゴシゴシと自身の口を拭う
顔を真っ赤にしてリュドリカはラシエルに怒鳴った
「な、何すんだよぉ!ファーストキスだったのに!」
ワッと涙が目に滲む
そういえばファーストキスもしないまま現実の俺は死んだんだよなぁ。今更ながらに未練が湧いてしまう
「すみません」
ラシエルは突き飛ばされても、そこまで後ろには引かず平然としながら口から溢れた唾液を指で掬い取り舐め取る
「おっおい!?全然詫びてないだろ!」
伝説の勇者が、めちゃくちゃ変態っぽいことしてる!
そんなのダメだろ!ダメだ絶対!!
「えっ……てか、あれ?」
よく見るとラシエルは先程まで持っていた俺の数本の髪の毛を手に持っている様子はない
なのに自立して動いている。俺はその事に疑問符を浮かべた
「な、何で急に動けるように……」
「あぁそれは多分、飲んだから……貴方の唾液を」
「はっ、はぁ!?何でそれで……まさか体の一部って、いやいや!そうだとしても唾液はダメだろ!」
「でもこうして無事に動けるようになりましたよ、何も持たずに」
ニコッと爽やかな笑顔を見せる
先程まで爽やかとは程遠い行為をしていたとは思えない男がだ
しかしリュドリカはその笑顔にすこぶる弱かった
「そ、そうか……まあ確かに、動けてるならいっか……?」
何だか腑に落ちないが、勇者が縛り無しで動けるならそれがいいに決まっている。
それに俺の髪の毛や爪など装備している姿は見たくないし
「はい。ふふ、リュドリカさん、顔真っ赤で可愛い」
ラシエルが俺の頬を撫でる
大きくて少し冷たい手のひらが、火照った頬には丁度良く心地よかった
……ってすぐ流されんな俺!
「なっ、何、言って……何言ってんだよ!ていうか!動けるなら!早くメルサのところに行ってやれよ!待ってるだろ!」
「………え?」
明らかに表情が強張るラシエル
あれ、俺なんか間違った事言った?
ラシエルはそのまま表情を曇らせ、少し声が低くなる
「そう、ですね……分かりました。行ってきます」
しかしすぐにまた笑顔を向けると、リュドリカの頭を撫で待ってて下さいと一言告げて、家を後にする
「………な、何だったんだ今の……」
取り残されたリュドリカは、ただ呆然とそこに立ち尽くした
.
ラシエルの家に一人残ったリュドリカは特にすることもなくただぼんやりと家の中を見回す
画面越しでしか見たことがない勇者の家、リアルに浮き上がる家具や壁や床のただのなんてことのない木造建築が凄く貴重な物に見えて感嘆と溜息がでる
「すげえな~リアルの勇者の家だ……タンスの中に5ルータ入ってんだよな。ベッドの下には隠し倉庫があってそこに宝箱が……」
ルータっていうのはBSB内での通貨の名前だ
ボソボソと独り言を言いながらタンスの引き戸を引こうと試みた時、この家の扉が開かれる
「ん?誰か入ってきた?ラシエルにしては帰りが早すぎ……」
「戻りました!リュドリカさん!」
扉の前に立つのは、息を切らせたラシエルだった
「は、はぁ?ラシエル?まだ五分も経ってないじゃん!メルサは……」
「彼女の家の前で誕生日おめでとうを言ってそのまま帰ってきました」
「おまっ」
それ絶対彼女キレるだろ!ヒロインにする仕打ちじゃねぇ!
それなのに汗を滲ませる勇者の笑顔は曇りのないとても穏やかな笑顔だった
「リュドリカさん」
「な、何だよ……んッ!?」
急に勇者の顔が近づいて……また唇に何かが触れる
それが何かとは先程の事もあってすぐにわかった
「ンッ!?フ…ちょッ、何し……んぅッ…!」
強い力で抱きしめられ、激しく口腔内を犯される
舌を絡め取られ、じゅるじゅると吸い付き、呼吸もままならない
「も…っやめッ、なんっ、ふッ、……なんッ、でっ、ンンッ」
抵抗する力も失われ段々と思考力が奪われる
ふるふると足の力が抜けていき、腰から砕けそうになったところで最後の力を振り絞った
「なんッなんだよ!やめろ!!」
「ゔっ!」
右手拳を勇者の鳩尾に食らわす
見事にアッパーがキマり、ラシエルは噎せてよろけた
「あ……綺麗に入った……じゃなくて、ごめんっ痛かったか?でもお前が悪いんだからな!急に、き……キスなんてするからっ」
「はい……あ、いえ、平気です。俺こそすいません、先に言えば良かったですね」
ラシエルは気を取り直すかのようにゴホンッと咳払いをして、またリュドリカの腰に手を伸ばす
「キスしても良いですか?」
「いやダメだろ。どういう流れだよ」
「えっ」
勇者は今日一驚いた表情を見せた
その反応に逆にリュドリカが驚く。まるで否定されると思ってなかったのか、変な空気が流れた
そしてあからさまに落ち込むラシエルに、何故だか居た堪れない気持ちになる
もしかして、このゲームの世界観ではキスは挨拶みたいなモンなのか?そんな設定あったっけ?
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