「すっ、すいません……！ガヴァルダ様！これには理由が……」 『言い訳はよい！勇者の末裔はどうなっているのだ！？もう今頃とっくに聖剣を見つけている頃であろう！！あの魔術は掛けたのか！？』 「魔術？……ハッ！」 そうだ！！ 勇者が王都に赴き呆気なく魔王にヤラれてしまうのには、リュドリカが村での敵情視察の時に、聖剣を抜けなくする魔術を掛けるからだった！ 勇者は王城に入ると突然聖剣が抜けなくなった事に為すすべもなく、初期のステータスで体力スタミナ共に足りずにそこで呆気なく魔王にやられてゲームオーバーとなってしまう 「あ……それは、えっと……」 『何だ！？』 「す、すいません！実は……！その魔法のロッドを失くしてしまい……」 『なにぃ！？この愚か者めが！！』 「あっ！で、でも！そのかわり勇者とお近付きになる事が出来ました！なので勇者の弱点でも探して……」 『親密になったということか！？ならばそのまま寝首を掻いて勇者を殺せ！！』 「えぇっ！？そっ、そんな……！そんな事ムリです！」 『何故だ！？』 「そ、それは……えっと、あっ、ロッドを失くした今、勇者を殺そうとしてもきっと私の力では返り討ちに遭ってしまいます……！」 『………フンッ、どこまでも使えぬヤツだ……それならばこうだ。この世界の各地に俺の可愛いペットがいるだろう。魔物達と遊ばせてそこで勇者を欺きヤツを葬れ！』 「…ッ」 『それが出来ぬと言うのならば、貴様にくれてやった首輪を使い貴様を爆死させてやるからな！』 「はっ！？えぇ！？」 『分かったか！？必ず勇者の首を持ち帰って来い！でなければ貴様の命は無いと思え！』 「そっ、そんな、ちょっと待っ……！」 パールのネックレスの光は静かに消え、それと同時に魔王からの通信も途切れる 俺は愕然と立ち尽くし、呆然とする 「……はぁ！？このネックレス、そんなあぶねー機能あんのか！？こんなの着けてられっか！って、あっ、あれ……！？」 パールのネックレスを取り外そうと試みるが、それはビクともしなかった 「とっ、取れない！！嘘だろ！？そんな……」 時限爆弾を首に取り付けられている そんなとんでもないものを付けた状態で、正気でいられるわけがない 「どっ、どどうしよう！？一体どうしたら……」 自暴自棄になって特に意味も無くその場をグルグルと歩き回る しかし何の解決策も思い浮かばない 目には涙が浮かび、その場で叫んだ 「俺……死ぬじゃん！！」 「リュドリカさん？」 「ハッ！」 アタフタとしていると、後ろから声を掛けられる そこには心配そうにこちらを見るラシエルが立っていた 「い、いつからそこに……！？」 「つい今です。なかなか戻って来ないので、心配して探しに来ました。さっき死ぬとか……」 「あっ、あぁ～～いや！何でもないから！それより……」 そうだ、とにかく今は魔王に言われた通りラシエルを各地に棲まう魔物のところへ誘導するのが先決だ。 幸いにもそこは俺が当初から向かおうと思っていたメインストーリーにおける目的地だったので、その魔王の配下と化した魔物達を倒し伝説の勇者の武具を手に入れる そこで勇者を出し抜く、なんてことは……出来ないけど、ラシエルが少しずつでも強くなってくれたら……或いは、もしかしたら…… 「ラシエル！俺達が今から向かうところは火焔の国バルダタだ！」 「バルダタ……ですか？」 一縷の望みに掛け、俺は改めて全力で勇者ラシエルのサポートに徹しようと心に決めた。 首に爆弾は取り付けられてるかもしれないけど、王都に行って魔王の攻撃によってすぐ死ぬ運命は免れた訳だし！ポジティブに考えよ！ 「何故そんな遠い場所に……」 「えっ、と、それは………預言者の……勘？」 そこに行けば退魔の鎧がゲット出来るし、防御力もかなり上がる 序盤では俗に言う体力ゲージがかなり低いので、防御力が要になってくるのだ 「ふふ、預言者様なのに勘ですか？それは頼りになりますね。じゃあ行きましょうか」 「あ、おう……」 火焔の国バルダタはここから南に向かい標高五千メートルもある活火山のある国だ 平凡な村で育ってきたラシエルにとっては話に聞いても特に用事もなければ一生涯訪れることなどないであろう それなのにまた二つ返事で快諾する勇者 俺も少し突拍子が無さすぎたかと思いつつも、ラシエルはニコニコしながらついてきてくれる 「ほんと……ラシエルって疑う事を知らないのな……」 「それはもちろん、リュドリカさんだからこそ信じてるんです」 「……そっか」 ………これは余談なのだが、本来ならば初見殺しの魔王イベの後にゲームオーバーになった主人公は、実は負けイベントという仕様になっていて、その後倒れた勇者を最古の里クラギラのクラグ族の使いが瀕死の勇者を里まで運ぶ そこから打倒魔王に向けての強力な伝説の勇者の武具や仲間を探すよう里長に助言を受け、冒険に役立つアイテムを授かり旅に出るのが本チャンのストーリーだ それら一連の重大なストーリーをすっぽかしてさっさと火焔の国バルダタに向かおうとしているんだから、普通なら疑うのもおかしくないはず…… 最古の里クラギラはこの世界カロリアの最北端に位置している かなり辺境な地になるので、実はそこに出没する魔物もめちゃくちゃ強い このゲームを二周目三周目とプレイしている人は、わざわざ負けイベントを通過する人は少なかった 何故ならば序盤で死ぬ予定のリュドリカが、魔王の攻撃に巻き込まれて死なずに済む救済措置にもなるからだ まあでも結局最終的にはリュドリカは魔王の攻撃によって絶対死ぬんだけど……… 「……改めて俺、本当に不遇キャラに転生したんだな……」 「え？」 「あ、いや……」 まあなので、最初の魔王イベをすっぽかすなら、わざわざ自分から最古の里クラギラに行かなくても別に構わないのだ しかしそこで手に入る強力なアイテムは、魔王討伐には必須となっているので遅かれ早かれ必ず行かなくてはいけない 「よし！まずはやっぱり火焔の国バルダタに向かう！」 「？は、はぁ……」 とりあえず今は最古の里クラギラは後回しにして、火焔の国バルダタに向かおう 俺は意気揚々と歩き出す 何度もプレイしているこのゲームをいつもの如く効率よくクリアしようと考えた結果、この先に俺が待っているのは、致命的な死亡フラグだった