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第17話 夢のプラチナトラベラー

「なっなに!?」 「それ、着て下さい」 頭に被さる何かを取り上げて見てみると、それは勇者の衣だった 「えっ!?これは!俺なんかが着て良いものじゃ……!」 「そんな事を言ってる場合じゃないですよ。その……目のやり場に困ります」 ラシエルは上着を脱ぎ上半身を晒して、村での狩りや伐採などで鍛え上げ逞しく仕上がった筋肉が同じ男とは思えないほどリュドリカの貧弱な身体を際立たせた。要するに俺が見るに耐えないってことか? 「……ごめん」 「あっいえ!謝らないで下さい、寧ろラッキーなので……」 「……ん?」 ラシエルは何でもないです。と続けて言い、勇者の衣服を強引に頭から被せる リュドリカはされるがまま、ラシエルの施しを受け入れた そして考える。この勇者、ちょくちょく問題発言をしているような…… リュドリカとラシエルの身長差が約二十センチ以上もあるので、俺の身体は勇者の衣服ですっぽりと太ももまで覆われた 「とりあえず今はその格好でいて下さい。でもどうしましょうか…このままではまともに動けないので、早いですが宿に泊まりますか?」 「そ、そうだな……」 RTAやTAS動画まで作っていた俺が、まさかこんな村からたった数時間歩いたところでもう一日を終えようとしているだなんて この世界には、冒険者の宿が各地に点在している そこで身体を休めて回復をしたり、宿限定のクエストをクリアして冒険に役立つアイテムを手に入れる事も出来る 因みに全50箇所の宿クエストをクリアすれば、プラチナトラベラーの称号を得て宿泊代が全箇所無料になるのだ まあなので、別に無駄足という訳ではない。50箇所なんて巡っている間に大体魔王倒す寸前まで行くからあまり使い道はないが 「ここからだったら……確か少し先に宿があったような……」 「そこなら俺も知っています。よく村から露天商の仕入れに行くので」 立ち上がると上半身裸のラシエルに手を引かれ先導される 高潔な勇者の衣が、リュドリカが着るとブカブカで彼シャツみたいになってしまっている 「う、股がスースーする……」 下は何も履いていないので、違和感しかなくかなり居心地が悪い 俺は衣服が翻らないよう手に持っていたロッドを再び小さくしてカロリアでは誰もが当たり前のように持つ魔術の施された四次元袋に仕舞った。ゲーム用語で言うとアイテムボックスだ。保存食を仕舞う時にも使う そして勇者の衣服を翻らないよう両手でや抑えつける 「歩きにくいな……」 「……リュドリカさん、少しの辛抱なので、我慢出来ますか?」 「え?なに……」 次の瞬間、地から足が離れる 突然の無重力に驚いて声が出た 「ぬぁッ!?」 「裸足なので、ケガでもしたらいけません。捕まってて下さい」 俺はラシエルに抱え上げられていた 俗に言うお姫様抱っこだ 直に触れる勇者の厚い筋肉で覆われた肌がすぐ顔の横にあり、ドキッと心臓が高鳴る 「ちょっ!いいって!恥ずかしいし……!俺は平気だから!」 「俺が嫌なんです。それに、この方が早く着きます」 ラシエルはそのまま、少し急ぎますねと言って小走りで進み始めた もしかして今日ずっと俺の歩幅に合わせてくれていたのか リュドリカは申し訳無さと恥ずかしさを感じながら、ラシエルに身を任せてしまった . 「ここです。手続きをしてきますので、ちょっとそこで待ってて下さいね」 ラシエルはリュドリカを少し離れた場所に降ろすと、外に構える宿屋の受付に足を運んだ 「あ、うん……」 最初はお金もそこまで手に入る訳ではないので、宿代の20ルータはかなりの痛い出費になる しかしラシエルは嫌な顔せず、俺に笑顔を向けてくれた 「お兄さん、なんて格好してるんだい。魔物に盗まれたか?」 宿屋の店主がからかうように半裸のラシエルに絡む ラシエルは愛想笑いをしながら特に気にする事なく手続きを済ませた 「ラシエル……ごめん。俺、お金持ってなくて……」 居た堪れなくてひょいと顔を出すと、ラシエルはまるで隠すかのようにリュドリカの前に身体を向けた 「大丈夫ですよ、気にしないで。それより、俺の後ろにいて下さい」 「え?なんで……」 「なんだ~?後ろの兄ちゃんも服一枚か~?変わった連中だねアンタ達」 店主がマジマジとリュドリカの事を見ていると、突如突風に煽られる 勇者の衣が翻り、丸裸の下半身が晒される 「うぎゃっ!」 「ッ!?なっ……」 リュドリカは咄嗟に衣服を押さえつけて、顔を真っ赤にさせた こんな格好をして、流石に変態だと思われたか!?まさか出禁になるんじゃ…… 次第に段々と顔を青くさせて、不安に駆られ始める 「兄ちゃん……アンタ、下、何も……」 「…………。今、見ましたか?」 ラシエルの声のトーンが、明らかに低音になる 見上げて顔を見ると、さっきまでの笑顔は消え去り、今にも斬り掛かりそうな程店主を睨みつけていた 「え、そりゃあ……なんか可愛くてちっせえのが……」 「ちっさくないわ!」 いや、小さいのか?リュドリカに憑依して自分の身体、特にシモの部分なんかはあんまり見ていないし…… 店主はニヤニヤとしながら俺を茶化してくる 「……そう、ですか。………。」 「ら、ラシエル?」 ラシエルはそっと背中に手を伸ばす。するとスウゥ、と聖剣の姿が浮かび上がり、それを握り締め静かに口を開いた 「………最期に言い残した事はありませんか?五秒だけ待ちます」 「なっ!?なんだその光る剣は……ま、まさか兄ちゃん……ゆ、勇者か!?」 「おいラシエル!?どうした!?やめろって!」 五…と数え始めた瞬間、店主はすぐさま頭を深々と下げ大声で謝罪した 「す、すまんかった!!この通りだ!!許してくれ!!」 「命乞いか……俺もそんなによく見ていなかったというのに、許すわけがないでしょう」 「何を言ってんだよお前は!!剣を仕舞え!!」 どうどうといきり立つラシエルを必死に諌めるが、腕を引けども押せども全く歯が立たない 店主は顔を真っ青にし泣きながら懐から何やら銀色に輝くカードを取り出した。それは……! 「こここれ……!特別にあげますんで……!!今回は見逃して下さい!!お願いします!!」 ヒイィと叫びながら店主はプラチナトラベラーの称号であるカードを差し出した ラシエルはそれを一瞥して、目を細める 「何ですかそれは……そんなもの要りません」 「いるからっ!これ!!結構貴重なアイテム……カードだから!!」 まさか何周もしているこのゲームにこんな裏技があっただなんて 必死に50箇所も巡ったのが何だかバカバカしくなった これが本来のゲームで通用するかは分からんが。 そうしてなんとかラシエルの怒りを鎮める事ができ、尚且つ宿代が浮いたリュドリカ達は、最序盤でグレードの一番高い部屋に泊まる事が出来た

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