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第20話 羊も有難迷惑

「ン…ッ……」 いつの間にかベッドに腰掛けるラシエルと対面するようにその上に跨り、腰を沈めて濃密な口づけを交わして数十分と経つ  何度もラシエルの手が身体の至らない所に伸びてくるのを必死に制して、自身の昂る熱もどうにか鎮めようと気を紛らわせる為に目を頑なに閉じて昨日に引き続き頭で羊を数える 「はぁ、リュドリカさん……。ふふ、眉間に皺……凄い事になってる」 やっと赤く腫れ上がる唇を開放したラシエルは、リュドリカのぎゅう、と固く寄せられた眉の間を指で撫でる その仕草で漸くリュドリカの緊張の糸が途切れた 「ハァッ!お前っ、ほんとにしつこい……」 やっとラシエルの満足が得られたのか、次は頬やオデコにキスを落としてくる 「アハハ、今日は凄く頑張れそうです」  今日どころか一ヶ月分はしたぞ 今更だが体内に入った俺の唾液はどうなってんだ? こんなにしてもたった一日で汗や排泄で消化されるのか?そういう仕組み?それはなんか俺が物凄く損したような気になるんだけど…… 「ていうか、朝イチに商人が来るんじゃなかったのか?もうずいぶん時間経ってるけど、こんなにダラダラしていいのかよ」 「え?あぁ、多分もうすぐ来ますね。ちょうどいい時間です」 「はぁ!?」 こいつ!最初からこのつもりでワザと早起きさせたのか!? だったらもう少し寝ていたかったのに!俺と俺に協力してくれた五千の羊達に謝れ!! ムスッと不貞腐れて、赤く腫れてきた唇を労るように擦る ラシエルはニコッと笑うと、そんな俺の頭を撫でた 「今から商人のところに行って着替えと朝食を買ってきます。リュドリカさんはここで待ってて下さい」 「………ふん。飯はまだ予備があるだろ」 「宿限定のマロ牛しぐれ肉のホットサンドはこの地域では凄く有名なんですよ。ご馳走します」 「!!」 宿限定飯…!!料理で作ることが出来ないから宿屋で買うしかない貴重な回復アイテムで、ゲームグラフィックの見た目は本当に美味しそうで再現飯を作っている人のSNSの写真を見てはよくよだれを垂らしていた 「………二つだ」 「ふふ、分かりました。すぐ戻りますね」 ラシエルはまた俺の頬に不意打ちにキスをして、部屋から出ていく そろそろこの行為にも慣れてきそうで、実は全く慣れていない 一人になったことで、さっきまでの激しい口づけが頭で反芻する ラシエルの唇……凄く柔らかくて気持ち良かったな………って 「ぅああッ!!何考えてんだ俺は!ダメだ…風呂入ろ……」 完全に勇者に絆されている そしてラシエルは俺の弱みにつけ込むのがうますぎる 俺はホモでもゲイでもないし、ちゃんと女の子が好きだ。 ラシエルは俺にとってただ顔が良いってだけで、高身長且つ脚長イケメンで、筋肉が逞しくてあったかくて、抱きつかれるとなんか良い匂いして、剣を振るう姿が格好良くて、あと顔が良くて……とにかく!男として憧れる存在ってだけだ!! 「……の、はず、なんだよなぁ……?」 なのに蓋を開けたら変態だし姑息だしなんかめちゃくちゃ俺に執着してくるし……キャラ崩壊にも程がある 何よりなんだかんだ結局悪い気がしないって思っちゃってる自分がどこかにいて、このままでは本当にマズいと思い始めた 「本当にこれはなんとかしないと……!!」 何か手を打たなきゃと頭を捻らせろうとした瞬間、グウウウ…と腹の音が鳴った 「うん……とりあえず、飯食べてから考えよ……」 一旦この状況改善は後回しにして、リュドリカはとりあえずラシエルの帰りを待つために、部屋に備え付けられている風呂で身体を洗った .   「めちゃくちゃ美味かった~!!」 「ご機嫌ですね」 ラシエルが戻ってきて長年の夢だったマロ牛しぐれ肉のホットサンドを食し至福の時を過ごしたが、その後に旅の準備を整えようとついでに買ってきて貰ったモノに重大な問題が発生していた 「ん?んん……あの、さ……服を買ってきてくれたのは凄くありがたいんだけどさ……」 「気にしないで下さい。寧ろあんな姿で居られると俺が嫌なので……」 「うん。だからって何で下と靴だけだよ!?上は!?何でラシエルが別の服を着てるんだ!?」 「だって貴方が勇者なんですし、俺が着てたらおかしいでしょう?俺はこっちの方が楽で良いです」 それに肌着はありますよ、その衣の下に着て下さいともう一枚手渡される。そういうことじゃない ラシエルは最初に着ていたようなザ・村人の服を着ていた 俺はというとサイズオーバーな勇者の服を未だに着せられて、如何にも馬子にも衣裳という状態だ 「見るからに偽勇者だぞ!?おかしいだろ!」 「よく似合っていますよ。そろそろ出ましょうか」 どれだけ言っても聞き流す本物の勇者は、村人の衣装でもオーラが違う 衣装の装備は割と値段が張るのでこれ以上は出費も痛い どう説得しようか考えている間に、ラシエルに手を引かれいつの間にか宿屋を後にしていた 「あっ!!」 そして思い出す ステータスがチート化していることを。 この機を逃すわけにはいかないのでとりあえず服のことは後回しにして、時間を無駄にした分を取り戻すかのように俺達は走って火焔の国バルダタへと向かった

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