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第21話 火焔の国バルダタ
火焔の国バルダタの象徴とも言える不死の鳥エンドルフィン
普段は温厚で一番に国の為を想う心優しい鳥なのだが、魔王の力によって洗脳を受け、今は活火山の頂上で荒れ狂い、民に危害を加えようとしていた
不死の鳥は、体長約五十メートルにも及ぶ超巨大鳥で、その大きな翼をひと度羽ばたかせれば、里への落石が絶えなかった。
突然の不死鳥の異変に里の長が自ら立ち上がり様子を見に行くが、頂上に向かったきり彼らが里に戻る事はなかった
ーー彼奴らを解放してほしければ、勇者を連れてこいーー
里長の息子であるパイロは、不死の鳥エンドルフィンにそう命を受け、勇者の出現を待っていたーーー
「おお!着いたな。ここが火焔の国かぁ」
宿屋で手に入れた最強バフ効果のおかげで、何時間と走り続けてもリュドリカ達は全く息一つと上がらなかった
ゲーム内では三十分だけだったのが、現実と時間間隔が違うおかげで数時間と効果は持続してくれた
「……凄いですね。こんなに高い山は初めて見ました」
標高五千メートルにも及ぶ活火山バル
その麓に住まう里にこそ、勇者が目指しているメインストーリーがある場所だ
「ラシエル、こっち」
ストーリーを知っているリュドリカは、意気揚々とその里の民族の住まう住処へと歩き始めた
数分と歩き続けると所々に石畳の家が見え始める。
あの造りの家は、全て活火山バルから降り掛かった噴石や溶岩で作られたもので、この国の里長の神力も相まって、その硬度は鉄よりも硬さを増しており頑丈な造りになっている
リュドリカはその家の佇む中心地で、キョロキョロと辺りを見渡した
視線を更に先に送っても、人影が一つも見当たらない
「あれ、人が居ないな」
また更に家屋が立ち並ぶ道沿いを歩き続けると、火山の影響なのかどんどん気温が上昇しているのを体感する
「……あっつい!!ふう、火焔の国ってだけあるなぁ」
リュドリカはその蒸し暑さで身に纏っていた勇者の衣を脱ぎ腰に巻き付けた
「リュドリカさん、そんな格好……」
「あっ、悪い。勇者の服なのに、こんな着方したら罰当たりか」
「いえ、それは構いませんが……肌を出し過ぎです」
ラシエルがブカブカで肩が出すぎているからと、宿屋でわざわざ勇者の衣服の下に着るインナーまでついでに買って着せられているのに、どこが肌を出しすぎなのか分からない
最初から俺に合う別の服を買っとけば良かった話なのでは?
しかし、頭では思っていても追及はしない
俺が買った訳でも無ければ服を失ったのは言うまでもなく自業自得だったからだ
「このあとすぐ宝箱の探索しなきゃな……」
それで新しい服を買おう
リュドリカはうん。と一人決意する
ラシエルはそんな様子を横目に見ながら山頂を見上げていた
目で捉えられるほどの大きく立ち昇る黒煙に顔を顰める。火口の中から、鳥の翼のような巨大で赤い何かが、気味悪く蠢いていた
そんな不可解な光景の中でも、悠長に前を進むリュドリカの左手を不安げに掴んで引き止める
「んっ?どした?」
「これ以上近付くのは危険なんじゃ……。あの火山……今にも噴火しそうです……」
リュドリカは目をパチクリとさせ、掴まれた手を見下ろす。嫌な予感からか、掴んだラシエルの大きな手は微かに震えていた。そんな彼の気を紛らわせようと、リュドリカは意気揚々に手を握り返し、ブンブンと縦に振る
「大丈夫大丈夫~!そん時は俺が魔法で守ってやるし!」
「えっ、そんな事まで出来るんですか……?」
「うーん、多分!」
そんな高等そうな魔法がリュドリカに扱えるのかは実際は知らない。
だけど里には、不死鳥の加護という防御結界が施されているので、火山弾や火山灰などが降り掛かり里に直接の危害をくわえることは一切ないらしい
そしてその活火山の頂上に棲まう不死の鳥エンドルフィンこそ、今回のボスである
「!!」
再びラシエルの身体がピタリと強張り、眉根を寄せる
リュドリカはつられてラシエルの視線の先に顔を向けた
山頂が僅かに膨らみ、煙の勢いが増している
遥か遠くでズウゥンと地を揺るがす重低音が響いた、次の瞬間ーー
ドカンッ!と凄まじい爆発音がバル山の頂上から鳴り響く
ラシエルは咄嗟に掴んでいたリュドリカの手を強引に引き寄せ、守るよう抱きしめた
「ーーッッ危ない!」
目で捉えたのは、噴火した火口の中から大きな火山弾が里目掛けて飛びかかってきている光景だった
「おわっ、ら、ラシエル!平気だって!」
「えっ……?」
ぎゅう、と強く抱き締め続けるラシエルの腕をリュドリカはトントンと叩いた
降り掛かる筈の噴石は、あの勢いのまま落下するのであれば、もうとっくに地面に叩き付けられてもおかしくないはずなのに、その時はまだ訪れない
その代わりに、ジュウウッと鉄板を焼き付けるような甲高い雑音が頭上で反響している
見上げた先にあったその音の正体は、里の上空に張られた防御結界が、噴石を焼き尽くすようにしてその結界の中に吸収しているものだった
まるで溶岩で作られたような結界が、活火山バルの麓全体を円環を描きながら囲っている
「あ、あれは……」
「うっわぁ、リアルで見ると物凄い迫力だな……」
「あれが……リュドリカさんの魔法ですか?」
「えっ!?違う違う!あの活火山に棲むエンドルフィンって鳥の力だよ。この国の守護鳥で、不死鳥でもあるんだ」
ラシエルはその言葉に、不信感を買ったのか火口の付近に再び目を向ける
山頂から緩やかに流れ出る溶岩流の海を、まるで鼓舞するかのようにこの国の守護鳥であるエンドルフィンは、巨大な翼を羽ばたかせ、激しい噴石の雨を降らせている
結界にけたたましく振り撒く火山弾の嵐に、今にもヒビが入りそうだった
「その鳥は……火口の付近で何だか暴れてるように見えるのですが……」
「あぁ、それは洗脳されてるからだよ」
「洗脳を?一体誰に?」
「誰にってそりゃ勿論まお……」
そこまで言って、ハッと気づく。
まだラシエルには、魔王が復活した事を知られる訳にはいかないのに、うっかり失言してしまいかけてリュドリカは突然口籠る
「あっ……えと、む、むし……?そう!虫!ほらっ鳥に寄生する虫いるじゃん!それのせい!」
「はあ……」
明らかに取って付けたような言い訳に、ラシエルはなるほどと納得してくれた
「うん!だからこの里は安全なんだよ!……てかいい加減放せよっただでさえここは暑いのに!」
もうこれ以上は言及されたくないので、リュドリカは未だに抱きついたままのラシエルの腕をペシンと叩く
ラシエルはああすいませんと、漸く拘束から解放した
「ところで……この里には、家屋はあるのに人の姿が見受けられませんね」
「そうなんだよな。多分、この先の……」
すると、突然怒鳴りつけるような大きな声が遠くから聞こえてきた
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