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第24話 思う壺

リュドリカ達が行き着いた場所には、拓けた土地に石畳式の家がポツンと一つ佇んでいて、その家の外壁には何やら不思議な幾何学模様がびっしりと描かれている ーー初代様の眠る場所 エンドルフィンの不死鳥の加護の恩恵を初めて受けた男の墓には、歴代のアーマイト家の勇者とその男ーーバルダダの初代里長バウロが手を取る様子の壁画が描かれている この初代里長の英雄譚は、バルダタに住む住人なら皆知っている有名な歴史の一つだ リュドリカ達は、そんな貴重なバウロの屋敷へと足を運んでいった . 「これで……よし」 屋敷の扉は勿論簡単に開く筈も無く、特別なギミックが施されていたが、攻略を知っているリュドリカには朝飯前だった 解除と共にガゴンと機械仕掛けな音が響き中のギミックが動き出して扉が自動的に開く 「何だか特殊な仕掛けのある錠前でしたが、よく開けれましたね」 「えっ?あっ、えーと……うん。何となく……こうすれば開くかな~と思って」 「はぁ、流石です」 「えへへ……」 そんな訳あるか。溶岩が固まって出来た錠前に水を掛けて浮き出た4つの突起を決まった順番に打ち込むなんて 攻略を知っていなきゃ出来る筈も無い けど、それでもラシエルは疑うことなくニコニコと感心して俺を褒めてくれる。なのでついつい必要な手順をすっ飛ばして「知らないはず」の仕掛けを迷うこと無く解いてしまっていた 「預言者の力って何でも出来るんですね」 「ええと……うん!」 チートスキル過ぎると思うけどな。まあでも何かにつけて予言の力だからと言い訳に使えるのは有り難い リュドリカはあまり気にせずそのまま古びた屋敷の中へと足を踏み入れた 「わ、でっけえ」 中には、畳六畳分程の大きな石碑が部屋の中央にドシンと構えており、四つの面積にはこの国のシンボルのバル山、不死鳥エンドルフィン、初代里長のバウロ、勇者と手を取る戦士バウロの絵が彫刻されていた 「これは……誰かの墓みたいだ」 「うん、この国で初めて不死鳥の加護を授かった人のお墓なんだよ」 「そんな貴重な場所に勝手に入って大丈夫なんですか?」 「バレなきゃ大丈夫!」 そんな呑気な、とラシエルは苦笑する リュドリカは他に怪しい仕掛けが無いか見構えているラシエルを横目に、大きな石碑のある部屋の四隅をぐるりと一周した 「あっ、あった!」 ここに来た目的は、勿論この墓を見るためではない 部屋の隅にある床の間に飾られた古くて大きな壺に、リュドリカは駆け寄った 「へへ~これこれ」 壺の中には、現里長の邸宅の奥にある御蔵のカギが隠されており、これがあれば不死の鳥エンドルフィンを効率良く倒すのに必要な退魔の鎧がすぐに手に入れる事が出来る 所謂二周目ルートの攻略の仕方だ リュドリカは躊躇いもなくその壺の中へと腕を突っ込んだ 「ん?うーん……底が深すぎて手が届かない……」 今思えばこの壺俺のお腹ぐらいまであるし、普通に届く訳ないな…… 本来なら壺を割ってからアイテムを手に入れるあのお決まりのやり方が定番なのに、わざわざこんな回りくどい事をしてしまっていた 「だって、別に割らなくても手に入れる事は今まで出来てたし……」 ボソボソと独り言を言う 元いた世界では非道徳で有り得ないあの行為は、ゲーム世界だからまあいっかと今まで割り切れずにいたんだよな、壺だけに! なんて事を悠長に考えているとラシエルが俺の元へと駆けてきた 「ッ!リュドリカさん、何してるんですか……?」 「あ~……ラシエル。この壺の中にお宝のニオイが……」 「ほんとに犬じゃないですか」 「うっ、うっさい!……ッ!?あれ、抜けない!?」 諦めて腕を引き抜こうとするが深く突っ込み過ぎたのか、二の腕が嵌って全く引き抜くことが出来ない リュドリカは顔を青ざめ焦りの声を上げる 「ら、ラシエルっ抜けないっ!ごめん、後ろから引っ張ってくれるか!?」 狼狽えながら身体を捩るその姿に何を思ったのか、ラシエルは眉を顰めて目を細める 「リュドリカさん……それはわざとですか?」 ラシエルが前屈みで身動きの取れないリュドリカの腰に手を添えると、するりと大きな手が撫でつけた 「わっ!?なっ……何やってんだよ!引っ張れって言ってんのっ」 ジタバタと身体を揺らして自由の効く方の手をラシエルへ向けてやめろと叫んで乱暴に振るうが、簡単に掴まれ制されてしまう 「そんな風に腰を振って誘われると、俺も我慢出来ないです……」 「はっ……誘ってないわ!意味分かんねーからっ……てか尻撫でんな!」 何だかラシエルの様子が怪しくなってきてしまい、リュドリカは二つの意味で身の危険を感じた ぺらりと腰に巻いた勇者の衣を解かれて、しなやかな体躯が露わになる 「まっ……待て待てっ!落ち着けってば!」 ラシエルは無言でそのまま次に履いているズボンに手を掛ける リュドリカはヒッと小さく悲鳴を漏らした 「やっやめろって!あっ……そ、そうだ!今日っ、一緒のテントで寝てやるからっふざけるのいい加減にしろ!」 「本当ですか?」 「へっ……」 リュドリカの身体をまさぐる手が、ピタリと止まる 「今言ったこと、必ず守って下さい」 「……は?」 バリンッと煩く金属音が響くと、リュドリカは身体を支えていた大きな壺が崩れ落ちるのと同時に、バランスを保てずその場に倒れ込みそうになる ラシエルはその手を掴み、ふわりと優しく引き寄せた そしてこれまた優しい表情で、ニコリと微笑みかけてくる 「今夜、楽しみにしてます」 いつの間にか手に持っていた拳大の石ころを床に投げ捨て、リュドリカの頬を撫でる 「……。」 ちょっと待て。コイツ……図ったのか!? ドキリと身体が緊張して、その言葉にまともに答える事が出来なかった俺を尻目に、壺の中に隠されていた里長の御蔵のカギをラシエルは拾い上げ、はいどうぞと手渡す 「あと、あまり無闇に壺に手を突っ込むのはやめておいた方が良いですよ。中に危険な魔物が潜んでいるかもしれません」 「……あぁ」 屈託の無い笑顔を向けるラシエルの言葉が、もう何かの比喩にしか聞こえない 俺は今しがたお前に突っ込まれそうになったんだけど!喉まで出かかった言葉をグッと抑え呑み込む 余計な事を言うとコイツの思惑通りに為り兼ねない リュドリカは差し出しているラシエルの手に乗ったカギを乱暴に奪い取り、もうここに用は無いから先を急ぐぞとぶっきらぼうに言い捨てた

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