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第26話 不死鳥の加護2
「はい。一つのテントで、朝まで一緒に寝るんですよ」
ここには俺たちしか居ませんしね。とラシエルは耳元まで顔を寄せて囁いてくる
リュドリカは一気に顔を上気させ動揺して声が裏返った
「……ッ……わっ、ゎ、わかったよ!!」
あんな事を言わなきゃ良かった。
言葉にされた事で余計に意識してしまう
今思えば、これは旅人の宿では無いただのテントで、人もいない魔物が蔓延るフィールド上だ
あんまりラシエルの感情を逆撫ですると、危険なのは専ら俺の方なのに
取り出したテントをいそいそと一つ仕舞い込むと、馴れない手付きで残った方のテントを組み立て始める
ラシエルはその動揺っぷりを見て、また嬉しそうにフッと微笑み立ち上がる
「この近くに魔物がいないか少し様子を見てきます。リュドリカさんはここから離れないで」
「うん……」
言われなくてもラシエルが居ない時に魔物とエンカウントなんてしたら一巻の終わりだ
ラシエルは聖剣を取り出して魔物が出現しそうな岩陰や小さな洞窟の中へと向かった
俺はその背中を見送った後に、あっと思い出す
「そうだ、アレも作らないと。見よう見真似だけど作れるかな?」
リュドリカはアイテムボックスから女の子から貰った、訳ではないが水をひっくり返してしまったバケツと、調理時用にかき集めていた枝を取り出した
「お待たせしました。付近の魔物はあらかた片付けたと思います」
「あ、ラシエルおかえり!こっちもテントは張った!でも火起こしがけっこう難しくて……」
「俺に任せて下さい。……それより、後ろのそれは何ですか?」
ラシエルの目線は、テントの側に立てられた謎の物体に向けられていた
そこにあったのは、枝を何重にも重ねて高く積み上げ、その先端にバケツを横向きに縛られている奇妙なオブジェクトだった
「これ?まあ、夜になったら分かるよ。ラシエル、これ頼むな」
リュドリカはフフンと得意げに鼻を鳴らし、火起こしで使うセットをラシエルに手渡した
.
日もすっかり沈み、辺りは明かりもなく真っ暗闇を生み出す
灯された焚き火の炎と、夜空の星の光だけが異様な存在感を放っていた
日中はあんなに暑かったバルダタの夜は、驚くほど夜風が気持ち良く涼やかなものだった
焚き火がパチパチと小気味の良い音を奏でながら、不規則に揺らぐ炎を見つめて、腹拵えの終えた二人は静かな夜を過ごしていた
「……はあ。ずっと眺めてられるな……エースエム……なんとかなんて興味無かったけど、ナントカ分のナントカ揺らぎが心地良い……」
「……?」
ラシエルはボソボソと呟くリュドリカの言葉に首を傾げながらも、特に言及せずに焚き火の調整を続けている
一日中動き続けていたせいか、膝を抱えて座るリュドリカの瞼は重く頭も上下左右に揺れ始める
「リュドリカさん、疲れたでしょう。火の始末をしますので、先にテントで休んでて下さい」
「ん……うん……いや、あとちょっと……」
「明日もまた一日中歩き回りますよね?何をそんなに……」
心配の声を掛けるラシエルが、ふと上空を見上げる
星の光とはまた違う、何か奇妙な細かい粒子の群衆が夜空を浮遊している
闇夜に忽然と現れた眩く煌めく無数の小さな光に声を失った
「……ッ!?」
「あっ、見れた……すげえきれい……」
寝ぼけ眼を擦ってリュドリカはわぁ、と感嘆の声を上げる
夜空を覆う白や赤や橙黄色、青い光が広大な黒のキャンバスに瞬く間に姿形を変え彩っている
「あ、れは……何ですか……?」
「火山灰だったものだよ。……あれも不死鳥が羽を振った時に抜け落ちた羽から加護を受けているんだ」
「はあ……」
「今日は……噴火が、えっと、三回も起きたから……影響を受けた火山灰は、ああやって一定時間バルダタの上空を浮遊したあとに、ゆっくり落ちてくるんだ……」
「凄く綺麗ですね」
「うん……見れて良かった」
ふにゃりと笑顔を見せるリュドリカの頭がガクンと後ろに倒れる
そのまま身体ごと後ろに倒れそうになるのを、ラシエルは片手で支えた
「ッ!……リュドリカさん?」
「えへへ……驚いたろ?ラシエルに絶対見せたくて……ここまで、連れて来てくれてありがとな」
急に力が抜けたのか、リュドリカは瞼を閉じ満足そうに穏やかな寝息を立て始める
ラシエルははあ、と深く溜息をついた
「あぁ、もう。そんな事を言われると、手を出しづらいじゃ無いですか……」
余った手を顔に宛て、また溜息を吐く
完全に意識を失い身を委ねた無防備なリュドリカのおでこに口付けをした
「今日は……これで我慢します。次は無いですからね」
身体が冷えないようにテントに入ろうとラシエルはリュドリカを抱え上げる
その時にまた、夜空に輝く色とりどりの光を目で捉える
「……貴方には驚かされてばかりです。本当に、不思議な人だ」
その言葉に何を含んでいるのか、夢の中にいるリュドリカにはまだ知る事は出来ない
そうしてラシエルはリュドリカと共に小さなテントの中へと姿を消した
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