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第49話 砂浜の仮試験

「え?今、なんか言ったか?」 「……いいえ」 何だよ、と聞き返してもラシエルはそれ以上口を開くことは無かった 「ふーん?泳げそうには見えないけど、そんなに自信あるなら試験受けてみる?でも、海じゃなくて陸での試験になるけどね」 カシミアはそう言うと岬からサファルトビーチを指差した 「あそこに俺が用意した模擬試験用のウォーラスピンドがあるんだ。機能は海豚型小型潜水艦(シールドフィン)と大差ないから」 砂上のセイウチ(ウォーラスピンド)は、砂浜を自由に駆ける事に特化しているが、シールドフィンと違うのは尾ひれに盾を着けていて、敵の攻撃を機体を回転させることで跳ね返す 模擬試験の為だけに作られたものだが性能はとても良く、まだ帝王レインガルロが荒れる前はサファルトビーチでは人気の観光スポットにもなっていた 「わぁ本物だ!早く乗りたいっ行こう二人とも!」 ここでのゲームのストーリーはタイミングが要になってくるが、どれもアトラクション要素が強くて俺は好きなステージだった。 駆け足で岬からビーチに向かうのをラシエルとライダンは、口には出さないが不満げに付いてくる 二人の視線は新たな刺客であるカシミアに注がれていた . 「む……難しい……!!」 分かってはいたが、いざ自身の身体で操作をしてみると思った以上にテクニックが必要で、コントローラーを扱うのとは全然わけが違った フロントガラスに舞う砂埃で視界は悪く、疑似エネミーからの攻撃ですら跳ね返すタイミングがなかなか掴めない 何より機体が回転する時の風圧で、身体が耐えきれず宙に浮いてしまい、足元の操作パネルが全く機能していない ビーチの端に逃げ込み、緊急避難ハッチから顔を出す 汗だくになりながら遠くを見つめると、まるで初めてとは思えない乗りさばきで、次々と敵の攻撃を跳ね返すラシエルの姿が見えた 「さ、さすがだ……最初はまだ俺のが上手かったのに……」 理屈は分かっているのに身体が追いつかなかったリュドリカと違い、まだ覚束ない操作をしていたラシエルに、コツを教えるとみるみる内に上達をしていき、今ではカシミアが放つ敵の攻撃を全て打ち返すほどになっている 〈こんな妙竹林なモノに乗って何が面白い。とてもじゃないが見ていられなかったぞ〉 「あ、はは……そうだよね。俺には向いてないみたい」 ライダンが近くに寄ってきて背中をこちらに向ける リュドリカはふらふらとハッチから抜け出し背中に飛び乗った まあ……最初からここでのストーリー攻略は勇者(ラシエル)家臣(カシミア)の共同戦線だ。 ただの好奇心で俺なんかが参加して良いものじゃない 「乗ってみたかったんだよなぁ。シールドフィン……」 ポツリと呟き、ビーチから数キロ離れた沖に目を向ける。 まだ穏やかなビーチと違い海上は洗脳され正気を失った水龍レインガルロで大荒れ状態だ。俺なんかが行けば足手まといにしかならない それに既にカシミアはラシエルの腕を買い、扱いが難しいと言われる邪気払いの盾を使いウォーラスピンドを乗りこなしている 俺の出る幕など最初から皆無だった 「今回も役に立てないのかぁ」 あーあ、と愚痴をこぼしているとカシミアとラシエルが遠くからこちらに向かってくる カシミアは爽やかな汗に活き活きした笑顔で、小麦色の褐色肌が輝いて見える 一方、その横でカシミアを睨みつけては静かに息を切らし、こちらに足早とやってくるラシエルが対象的だった 「おー、お疲れさま。ラシエル、やっぱお前凄いな!すぐ乗りこなしてたじゃん!」 「……はい。あんなのどうってことないです」 「いやぁ、やっぱ勇者の末裔ってだけあるねぇ!こっちも途中から本気出してたんだよ?」 「楽勝でした」 まじかあとケラケラと笑うカシミアに対し、ラシエルは敵意剥き出しで息を整えている 多分ラシエルも本気で挑んでいたんだろうと思うと、俺も安心した 「カシミア、どうだ?これだけの腕があったら水龍にも立ち向かえるだろ?」 リュドリカはまるで自分の事のように自信ありげに言う カシミアも嬉しそうに笑顔を向けた 「うん!うん!これだったら本当にレインガルロ様を鎮めることが出来るかもしれない!勇者のお兄さんオレと一緒に頑張ろうね!」 「……。」 「ラシエル?」 あまり乗り気じゃないのを全面に滲み出しながら小さく分かりましたとボソリと言う またか、と思いつつリュドリカは活気付けようとラシエルに発破をかけた 「俺はやっぱからっきしだったからここから二人を応援することしか出来ないけどさ、無事に水龍を鎮めることが出来たらラシエルのお願いごとなんでも一つ聞くから!なっ!がんばれよ!」 ラシエルはそれを聞いてパッと表情が明るくなり、目を見開く そして次は大きな声で分かりましたと快諾した 「一瞬で倒してきます」 「アハハッ!その意気だよお兄さん」 お前は馴れ馴れしく近付くなとラシエルはカシミアに冷たく言い放ちながら距離を取る。 そんなやり取りを見て、いつの間にか色んな意味で、ラシエルは俺がいないと動かなくなったなぁと、つくづく思ってしまう。もしかして、魔王を倒すことに協力するつもりが俺がラシエルをダメにしてる……? そんな事を考えていると、静かに傍観していたライダンがフンと鼻を鳴らした 〈馬鹿馬鹿しい。そんな無駄な事に時間をかけるつもりか〉 ライダンは遠く海で暴れる水龍レインガルロを捉えた

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