52 / 61

第52話 心配性

サファリアの海底に築造された厳かな古代遺跡の数々 地上ではお目にかかれない色取り取りの海中植物や、無数の魚達が見渡す限りに二人の眼前に広がる 前世の世界ですら目にすることは難しいその絶景に目を奪われ、リュドリカは感嘆と息が漏れた 「う、わあ、やば……めっちゃ綺麗……」 ラシエルに片手を引かれながら、逓わる鮮やかな魚達の舞いに幼子のようにはしゃぐ 「ラシエルみてみてっ魚!こんなに近くに!」 「綺麗ですね」 ラシエルは何かを探しているのか、キョロキョロと辺りを見渡してはリュドリカの問いかけに生返事をする そのつれない返事にムッとなり、ラシエルの目線の先を追った 「見てないじゃん。さっきから何探してんの」 「……万が一の時に備えて、アレの設置場所を確認していて」 「アレ?」 ラシエルの視線の先にあったのは、サファリアの公共物と思われるシールドフィンの備え付けられている場所だった サファリアでは、出入りの許可を得た人間用に複数台のシールドフィンがいつでも操縦出来るようにそこかしこに設置されている 海底にある海中帝国(サファリア)では、潜水艦に乗らなければ、人間はこの場所に行き来する事は出来ない 「何だよ、帰る気満々?楽しくないのな」 「いえ、そういう事では……ただ、貴方を守り切れる自信が無いんです……。ここは余りに地の利が悪すぎる」 いくら水中で呼吸が可能だといっても、やはり自由自在に遊泳する魚よりも、剣を振るうには格段と動きが鈍る事をラシエルは危惧していた 「守るって?ここは安全だぞ?」 「上を見てください。今にも海の魔物がこちらに襲って来そうです」 そう言われて見上げると、サファリアの遥か先で数匹の海中生物ヴァリバンが、こちらの様子を窺っている姿が見受けられた 「うわ、ホントだ……見た目グロテスクだな……でも大丈夫だよ。竜宮の騎士団がここまで来れないよう近付いてくる敵は倒してるハズだし」 「そうなんですか?……何処にもいる気配は感じませんが」 「え?あっ……」 そうだ。さっきカシミアに言われて殆どの騎士団は休憩に入ったんだ。それに、もし少数の部隊がいたとしても、レインガルロの治療で力を使い過ぎて疲弊している筈……じゃあ今は、一体誰があの場所を…… 疑問を浮かべた時、ドーンという爆発音のような鈍い音が頭上から響いた 視線を送るとそこには、遺跡に設置されている大砲がサファリアに接近していたヴァリバンに向かって砲弾を放つ光景が目に映った 「あ……なんだ。カシミアの追尾ミサイルが機能してるんだ。じゃあやっぱり安全だよ」 「ですが……」 ラシエルの気の進まない態度にリュドリカはハア、と大きく溜息を吐く 今も強く握りしめるラシエルの手を振り解き立ち止まった 「ラシエルは用心深いな~ちょっとはこの場所を楽しめよ!なっ?」 「……貴方が不用心過ぎるんです」 「ふん。そんなに気にしいだとすぐ禿げるぞ~?」 「は、禿げ……?俺は禿げませんよっ」 珍しく大きな声をあげて否定するラシエル 軽い冗談で言ったつもりの俺には、少し不機嫌になったラシエルの態度が凄く新鮮に思えた 「あ、ははっごめんごめん。冗談だよ。ラシエルの髪、水の中でゆらゆらしてるとキラキラ光っててきれいだなぁ」 「……。そんなので機嫌取ろうとしてませんか?」 「ダメ?」 「……いいえ。俺の方こそすみません。折角ですし、楽しみましょうか」 「うん!海底と言ったらやっぱり金銀財宝だよな~!!さっきから少し気になる場所があって……」 水中で泳げるにも関わらず、ずっと地底を歩いていたリュドリカはすい、と身体を浮かせ遠くに見える高台の形を模した遺跡に向かおうと足を動かす しかし自身の体は、思った以上に浮く事も進むことも出来なかった 「……?」 「リュドリカさん、一人で行こうとしないで下さい」 すぐにラシエルから手を引かれ、先導される形で前に出られて誘導される 体格の良いラシエルは、足にスナップを少し効かせただけですいすいと浮上していった なんだ?気のせいか?最近めっきり泳いで無かったし、感覚忘れてるのかな。まあ、ラシエルに引かれた方が楽だしいいか…… リュドリカは特に気にすることも無く、前を進むラシエルに宝箱の眠っているだろう場所を指示しながら探索を続けた

ともだちにシェアしよう!