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第53話 海底遊泳
「へへ~~豊作豊作ぅ」
両手いっぱいに見つけたお宝を手に、リュドリカはご機嫌だった
海底には数多くの財宝が隠されているが、実はその殆どが錆で状態が悪くなっていたり、宝自体が偽物だったりする
海流に呑まれて場所がランダムで入れ替わるシステムも相まって、見つけるのも困難であるが、実は火焔の国バルダタで手に入れた貴重な鉱石のランタンに照らされると、本物のお宝はその輝きが一層眩しく光り、簡単に本物と偽物とを見分ける事が出来た。
「リュドリカさん、時間もだいぶ経ちましたし、そろそろ地上に……」
「なに言ってんだよ、レインガルロが目覚めるまでは帰らないぞ。でもそうだな、そろそろ様子を見に行っても……ん?」
突如、視界が暗くなる
まるで分厚い雲に空が覆われたような違和感にふと見上げると、白く巨大な縞模様が遠目でも分かるぐらいにはっきりと見えた
「う、わっ、でっか!!クジラか!?すっげえ!」
リュドリカは手に持っていた財宝を急いで仕舞い込み、海中に棲む中で最大の哺乳類をもう少し近くで見ようと、勢いよく地面を蹴り上げる。
が、想像の半分以上もその身体は地底から浮く事は無かった
「……んっ!?やっぱり、思ったより身体が……」
力強く地を蹴った筈なのに、何故か身体は重く浮き上がるのが難しい。
ジタバタと手足を振り漸く二メートルは浮いたかぐらいのところで、その様子を隣で見ていたラシエルがハァと溜息を吐く。そして駆け登ろうと必死のリュドリカの両足をがっちり掴んでは、元いた位置まで引き下げられた
「うぎゃっ!な、何すんだよっ!?」
「それはこっちのセリフですよ。全く、すぐに我を失って一人で突っ走ろうとして。貴方はイノシシですか」
「なっ!だってあんなん!近くで見たいだろっ」
「泳いで行くのは危険です。どうしてもというのならアレに乗って下さい」
ラシエルは先程見つけたシールドフィンの設置された場所を指差す
確かにあのクジラが泳いでいる辺りはサファリアの防衛線の範囲外になり、魔物もそこそこに彷徨いていた
「……そう、だな。ラシエル……」
リュドリカは不本意ながらも、ラシエルの袖をくいっと引っ張る
ラシエルはまだ呆れているような口調で何ですかと答えた
「あれ、もっと近くで見たい。連れてってよ」
これまた不本意だが身長差を利用して上目遣いで頼み込む
ラシエルはぐ、と唸った
「……そんなあざとい仕草いつ身に付けたんですか。はぁ。もう、しょうがない人ですね……」
「やった!」
次は満更でも無さそうに深く溜息を付いて、少しだけですからねと釘を刺される。リュドリカは快く了解し、ラシエルの腕を引いて駆け足でシールドフィンに乗り込んだ
もうすっかり慣れた手つきで、シールドフィンを操縦し、乗りこなすラシエルの様子を、リュドリカは後ろから覗き込む
数々の操作パネルを手際よく扱う姿も、剣を振るう時と違って繊細な動きがまた格段と格好良く見えた
基本的に一人用で作られているシールドフィンに無理に二人も乗り込んでいる為、リュドリカはラシエルの背中にぴったりと身を寄せて、腰に腕を回す。まるで恋人同士がするバックハグを、意図せず今度はリュドリカが行っていた
「リュドリカさん……そんなに引っ付かれると、手元が狂います……」
「……なっ、何だよ!危ないから掴まってろって言ったのラシエルじゃん。それに、めちゃくちゃ狭いから離れらんないし」
意識しないように気を付けていたのに、言葉にされたことでこちらまで羞恥が募り始める
勇者のガタイの良い背中と、硬い腹筋が肌に密着し心臓の速度が増していく
「ッ、な、なあラシエルは決まった?」
リュドリカは気を紛らわせようと無理矢理に別の話題を持ち出した
主語の抜けたその問いかけに、当然ラシエルは聞き返す
「……?何がですか?」
「おねがいごと!一個だけ叶えるって言ったじゃん」
「あぁ、それ……色々と考えすぎて、一つに絞り切れなくて」
「何をそんなに迷ってんだよ……」
「だって、何でもしてくれるんでしょう?」
「そこまでは言ってないだろ!俺ができる範囲でだってば!」
「リュドリカさんが俺に出来ること、沢山ありますよ」
この話題を振ったのは間違いだったか。ラシエルはご機嫌でああでもないこうでもないと何やら怪しいお願い事を連想し始めている
その姿にリュドリカは引き気味に目を細めるが、ふと改めてラシエルの手元をじっと見つめた
「……俺も一個ラシエルにお願いしてもいい?」
「良いですよ、もちろん。それに、貴方の言う事は殆ど聞いているつもりです」
「えへへ、確かに……レインガルロが目覚めたらさ、後で俺にもこれの操縦教えて?」
「この玩具のですか?」
「オモチャって……うん」
「では一度地上に戻ったら、一緒に練習しましょう」
「まじ!?やったー!」
「あぁ、ほら。ここからだと良く見えますよ」
楽しみが増えルンルンと期待に胸を躍らせていると、漸くお目当てである巨大なクジラのそばまで到着した
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