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第54話 海中生物ヴァリバン

「うっわ……で、でっか!!すっげ~初めてだよクジラ見るのも!それもこんなに近くで!うわぁ……カッコイイ……」 リュドリカはラシエルの背中から身体を乗り出し、より近くその巨大な勇魚を見ようとフロントガラス近くまで顔を寄せる 榛色の瞳が水面のガラス越しに反射しキラキラと揺れ、無邪気に満面の笑みを浮かべた 「ッ、リュドリカさん、危ないです。あんまり身体を乗り出さないで」 「なあっもっと近くで見たい!クジラの顔まで寄せて!」 「ええ?危険ですよ。ここで十分見れるでしょう?」 「お願い~!!」 「はぁ……ほんとに、少しだけですよ」 ラシエルは渋々と機体を操縦させ、少し離れたクジラの顔の側まで寄せる リュドリカは身体を乗り出したまま、一生に一度のこの機会を満喫しようと神秘的な生物を目に焼き付ける 遊泳するクジラの黒く深い瞳も、同じくシールドフィンをじっと捉えている。 その異質な存在の視線に、ゾクリと背筋が震えた 「うわっこっち見てる!でっか。なんか、こわ……」 今、目が合ったかもしれない。そう思うと、あの巨大な生き物は、ちっぽけな俺達のことをどういう目で見ているんだろう。 少しの恐怖心が、好奇心を上回る 「満足しましたか?もう戻りますよ」 「……うん。ありがとう、そろそろレインガルロのところに……」 リュドリカ達を乗せたシールドフィンに、クジラの大きな瞳が近付いてくる 呑まれてしまいそうなほどの黒い闇が、射るようにリュドリカを見つめている 「ッ、な……なんか、見られてる……」 「え?」 首元に提げていたパールのネックレスが、衣服の隙間からギラ、と闇に照らされたーー   〈ーーーーーーーーーーー〉 「!?」 キン、と響くクジラの警笛が機体を揺らす超音波となって、シールドフィンを巻き込み海中に響き渡る 「えっ!?うるさっ……な、なに!?」 「怒らせてしまったのかもしれません。急いで戻りましょう」 「ッ、ラシエルっ!前!!」 「ーーッ!?」 突如、四方から海中生物ヴァリバンの群れが、リュドリカ達を乗せたシールドフィン目掛けて一斉に襲い来る 歪な程大きく開いた口の中から、ビッシリと隙間なく生えた鋭く長い牙が覗く。左右に飛び出た丸い目は、黒く不気味な形でギョロリとこちらを狙い、ヒレの付いた細く長い手足を蠢かせ、グングンと近付いてくる 「ヒッ!」 ラシエルは恐怖で固まるリュドリカの腕を強く引き、自身の腰に沿わせて握るよう催促する 「リュドリカさん、しっかり掴まってて下さい!」 一匹の素早いヴァリバンが、目前まで向かい来る ラシエルは力強く操縦レバーを引き、水平に進む機体を目一杯持ち上げた。腹部に取り付けられたサーフボード型のシールドが発動し、ヴァリバンを上手く跳ね返す 「ゔっ!」 機体が揺れる振動と衝撃で身体を支える事が出来ず、リュドリカは後部シートに背中を強く打ち付ける 「リュドリカさん!大丈夫ですか!?まだ来ます、掴まってて!」 「うぁ、ぶっ!」 言い終わる前に背中を引かれて、脇に挟み込むよう抱き寄せられる ラシエルはその状態のまま次々と襲いくるヴァリバンの群れへと機体を転回させ勢いよく突っ込んでいく 振動でリュドリカの身体は浮き上がり、外では鉄を強打する凄まじい打撃音が反響する ヴァリバンの耳を貫く雄叫びが、ミシミシと機内を揺らした 「づッ!」 背後の死角をついた数匹のヴァリバンが、シールドフィンに突撃する。システムエラーのハザード音が鳴り響き、機体に大ダメージを食らう リュドリカを抱きかかえた体勢での操作は、ラシエルの手元を尠からず狂わせた 「はぁっ……キリがない。次々に湧いてくる……」 隙をついたヴァリバンが、フロントガラスに飛び付く 鋭く尖った牙を何度もガラスに打ち付け、耐久値を奪い去っていく 「ッ!ま、まずいこのままだと……」 「っ、しえる、下っ、か……ミアのしゃっ、てい、圏内に入ればっ追撃っしてくれる、からっ」 ラシエルの抑えつけられている脇から顔を引き出し、激しく揺さぶられる機体の振動に吃りながら必死に伝える。ラシエルはハッと下を向き、カシミアが設置していた魚雷を見つける 「っ!分かりました、降下します。舌を噛まないよう気を付けて下さい」 すかさずレバーを戻し操作パネルを弄ると、シールドフィンは水中で一気に回転を掛け、急降下する 「ぐっ!が、あ゙あ゙ッ!?」 自重を支えきれず足が浮き上がりリュドリカは廻る機内で宙に投げ出されようとする。しかしラシエルが強く身体を支えていたため、壁に強打する事は免れた フロントガラスに飛びついていたヴァリバンは、その勢いに耐えきれず奇声をあげて引き剥がされる。シールドフィンに向かい来るヴァリバンの群れを蹴散らすと、カシミアの包囲網に入った すぐに対海中生物用魚雷が作動し、息を付く間もなくその化け物たちに被雷する 「っ!」 次々と辺りで爆発音が鳴り響き、その波動で機体を更に揺さぶる 数分と続いた騒音と振動が、やがて引いていく リュドリカは必死にラシエルの脇にしがみついて、外の世界を覗き見た 「追……って来ない?」 「帰っていくみたいです。助かりました」 ミサイルに撃ち抜かれた仲間の凄惨な姿を見た他のヴァリバン達は最早諦めたのか、これ以上襲い掛かってくる事は無かった

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