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第55話 龍の雫を穢す者

「はあっ、ヤバかった。ほんとに死ぬかと思った……うぅ、体が痛い……」 「どこかケガをしているかもしれない。俺に掴まって、早くここを離れましょう」 「ら、ラシエル……」 サファリアの海底に辿り着くと、ラシエルから腕を引かれそのまま腰に手を宛てがい密着する。そしてシールドフィンのハッチから抜け出し、腹部に取り付けられた邪気払いの盾を急いで回収する。ラシエルは再びリュドリカの身体を支え泳ぎだした 「この体勢、キツくないですか?」 俺の我が儘のせいでこんな目に遭ったというのに、ラシエルは責めることもせず、俺の身を案じる言葉を投げ掛ける 「うん……なあラシエル、怒ってないのか……?」 「……その話は後です。打ち所が悪く無いか確かめないと、急ぎますよ」 「ごめん……」 リュドリカは支えられながら後ろを振り返る。至るところにヴァリバンの残した傷痕や、原型が無くなるほどのへこみが、煙を上げるほどシールドフィンの機体全体を損傷させていた 自業自得が祟った事故の罪悪感に苛まれ、ラシエルに顔向けが出来ない。 顔色を暗く沈ませながらも、リュドリカはふと見上げた。ヴァリバンの姿はもう殆ど見えず、それと同時にあの巨大なクジラの姿も、いつの間にか居なくなっていた ……あのクジラ……あの時、俺のネックレス見てた……。 それに、微かに聞こえた 〈海神(わたつみ)がおわす神域で創造されし尊き結実、龍の雫を穢す者ーー排除せよ〉 あれ……多分、怒ってた、んだよな……。 この海では神聖の象徴とも言えるパールのネックレスに魔王が呪いなんて掛けたから…… レインガルロが目覚めたら、いよいよこの足枷をどうにかしないと。ーー自身の身が、ラシエルが、もっと最悪な場面に出くわしてしまわぬ前に リュドリカは首元に手を宛て、目を伏せる ラシエルに身を預けて泳ぎ続け、暫くすると、レインガルロの眠る龍宮に到着した。 . 「あ、二人ともおかえり。途中でオレの設置してた装置が物凄く活性化してたけど、何かあったの?」 龍宮に着くとすぐにカシミアが出迎えた 出会った頃と変わらない様子から、レインガルロの容態はかなり落ち着いてきているのだと汲み取れた 「特に何も。それよりも服を乾かしてください。リュドリカさんは一度脱いで。ケガが無いか診ます」 「うん……」 「えっ何、オレの扱い雑じゃない?しかもケガって。やっぱり何か……」 「早くお願い出来ますか?」 「お兄さん!相変わらず冷たいね~!?」 もう追及することは諦めたのか、はあと息を漏らすと分かったよと渋々カシミアのスキルでラシエルの衣服が乾いていく リュドリカは海水で張り付く衣服を脱ぐのに手こずりながらも上着を脱ぎ切った 「診ますね。うーん、ここだけ少し青くなってる……痛みますか?」 ラシエルが背中を軽く撫でる リュドリカはピクリと背を強張らせた 「ん、ちょっとだけ……でも別にそこまでだよ。ラシエルが守ってくれてたし、俺は全然平気だから!」 「ですが……」 心配するラシエルを何とか安心させようと、陽気に振る舞う。実際、敵と応戦中はラシエルがずっと身体を支えていてくれていたので、大きな外傷には至らなかった そのやり取りが気になったのか、カシミアも二人の様子をちらりと覗き込む リュドリカの背中を見つめては、うん?と首を傾げた 「キミの背中のそれ、なぁに?なんか独特な……、っ!」 言いかけた言葉を突然閉ざし押し黙る リュドリカは何の事だが分からず、呑気に聞き返した 「え、背中?」 「いやっなんでもない」 カシミアは動揺したように目を泳がせては、リュドリカの背後にいる男にかなり怯えている様子だった つられて振り返ると、ラシエルがただ静かにカシミアを睨みつけていた 「ら、ラシエル?顔!怖いって!どうしたんだよ!?」 「あぁ、すみません。海水で少し目が疲れたみたいです」 「お兄さん、そんな言い訳……」 カシミアは冷や汗を浮かべながらハハハ、と苦笑する また言葉を言い掛けるが、今度は遠くから叫びとも取れる一人の騎士団の声が響いた 「カシミア様!レインガルロ様がお目覚めです!」 「っえ!?わかった!すぐ行く!」 カシミアは一目散に竜宮の騎士団の元へと駆けていく リュドリカも一瞬呆気に取られたが、カシミアが乾かしてくれた衣服を急いでまた身に着け、ラシエルの手を引いた 「ラシエル!俺達も行こう!」 カシミアの背中を追いかけて、リュドリカ等もレインガルロの元へと向かった

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