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第57話 一緒じゃない!

〈友達のクジラがね、凄く立派な潮を吹くんだけど、それを人間でも出来るって言うんだ?〉 そこまで言ったところで、急に前のめりになって聞き始めたのはラシエルだった 〈地上にいる生物なのに全然信じられなくてさ。ボク、それが見てみたい!〉 「え?クジラって……しお……?」 リュドリカは呆気に取られて、ポカンと口を開きフリーズする ……クジラって、さっきのアイツの事か? まさか龍の雫って……レインガルロの水晶の事だったのか。そういえば、真珠は別名『月の雫』って聞いたことあるし、このカロリアでは龍の雫が真珠の事なのかもしれない……ああ、だからあのクジラは怒っていたのか……ていうか友達だったのか!? ぐるぐると思考が交錯し、帝王の言葉の理解に無駄な時間を要する。 そうして漸く、水龍の放った命令を噛み砕いた 「……。」 えっ……てか今なんて言った?しおって……まさかあの潮!?女の子がアレがアレしてアレするやつ!?し、潮吹き!? 〈あれ、ねえ聞いてる?潮吹き!見せてよ!〉 硬直して押し黙るリュドリカを不審に思ったのか、レインガルロは首を傾げて何の躊躇いも恥ずかしげもなく連呼する リュドリカは端から聞いていても小っ恥ずかしいそのワードに眉を下げ顔を引き攣らせた 「いやっ!いやいやいや、あの、それはちょっと……」 〈え?なに、やっぱ出来ないの?〉 「出来ないというか……俺は男だし、そもそも人間のはクジラがするようなそんな大層な事じゃ……」 「出来ます」 「はっ!?」 リュドリカの言葉に割って入ってきたのは、ラシエルだった 〈えっ出来るの!?見たい見たーい!〉 レインガルロはきゃっきゃと騒ぐ そして早く早くと駄々をこね急かしてきた 「おまえっ!?何言ってんだよ!出来るわけないだろ!?そ、そんなっ、そんなことっ……!」 ラシエルは目を細めて、動揺して口を開いたまま声が上手く出なくなった俺にニコリと笑いかける 「リュドリカさん、俺に任せて下さい」 「ッ!?」 お前に任せるのが一番怖いんだよ!ていうか何で急にやる気になってんだ!? あんなにも強腰の態勢でいたのが嘘のように力が抜ける 「いや……さすがに、それはちょっと……俺にはむりだって……」 「さっきなんとかするって言いましたよね?俺も手伝いますから、頑張りましょう?」 微笑むラシエルの笑顔が怖い リュドリカは顔を真っ青にして、抵抗する暇もなくラシエルに腕を引かれた 「それに今はあの馬畜生……いえ、迅雷の神獣も居ませんし」 俺も見たいですと、ラシエルは俺の下半身にするりと手を伸ばしてくる 「っ!や、やめろって……ほんとに、そんな冗談、キツいから……っ」 いつの間にかラシエルが背後から抱きつくようにして、俺の身体をまさぐり始める。 左手で逃げないよう抑え込み、右手で太ももをなぞる 何とか抵抗しようと空いている方の腕を振り上げるが、追い討ちを掛けるよう囁きかけた 「あぁ、そういえば……俺のお願いごと、まだ叶えて貰っていませんでしたね?」 見せて下さい、リュドリカさんの……と耳介に唇を宛て鼓膜に響くよう低い声で呟かれる。徐々にラシエルの手のひらの向かう先が怪しくなり、リュドリカは顔を真っ赤に染めあげた 「ッッ!?そんなお願い!いやだっ、やめろってば!」 玉座に寝そべるレインガルロは、わくわくしながらこちらをジッと見ているのが、逆に居た堪れない気持ちに陥る 「はぁ……ほんとは、リュドリカさんのこんな姿……俺以外に見せるのは気が引けますが……今回はやむを得ないという事にします」 「そっ、それなら!やっぱ俺っお願いごとは……あきらめ……」 「おい、そこのタツノオトシゴ、お前は出ていけ。さもないと斬る」 ラシエルは俺の言葉を遮り、水龍レインガルロの横に居座るカシミアを睨みつけて言い放つ。聞けよ!と小さく叫ぶが、俺の言葉は頑なに無視し、カシミアはバレたかとあーあ、ざんねんと言って、王の間から出ていった 〈ねぇ早く!見せてよ!どんな風にするのか!〉 痺れを切らしたレインガルロは、一点の曇りも無く、無邪気に残酷に無茶ぶりをしてくる。 俺はなんとか他のお願いにすり替えられないか、必死に頭を働かせた 「なっなあ!?他のお願いにしないか!?もっと他に面白いことはいくらでも……」 「帝王様、男の潮吹きには時間が掛かります。必ずお見せしますので、もう暫くお待ち下さい」 「!?」 〈ふーん、あっそ。じゃあその時になったら言ってくれる?ボクあっちで遊んでるから〉 レインガルロは早々に飽きて、家臣タツノオトシゴを呼びながら同じく王の間から出ていってしまう 「リュドリカさん、良かったです。もう俺しか見ていませんし、リラックスしてくださいね」 「で……出来るか!放せよっばか!はなせっ!」 ガッチリと身体を掴むラシエルの拘束に全く歯が立たず、額に冷や汗をかく 豪華絢爛たる部屋に取り残された二人は、この空間に似つかわしくない行為を始めようとしていた

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