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波紋
「反抗期でちゅかー?んー?」
「やめろ、そんなわけないだろ。」
ハンディファンを片手に蓮の悪友、磯村大和 がそううざ絡みをしてくるのを、蓮は肘で押しのけた。。教室にはエアコンが入ってはいるものの、この連日の猛暑日で効きが悪く、教室の温度は生温かった。
「俺、可哀想だと思うよー。悠真先輩。全然悪くないだろー?どうかと思うなあ、その態度。」
蓮だってそんなことは分かっている。だが、何故か気に食わない人間なんて誰にでもいるだろう。
「蓮―!はい、昨日のサーフワックス。ありがと。確かにこれ結構良いね。うちでも取り扱ってもらえるようにお父さんに言ってみるね。」
そう言って茶色く長い真っ直ぐな髪を揺らしながら大和に近寄ってきたのは浜浦七海 。蓮の幼馴染兼、サーフィン仲間。両親がサーフショップをやっているので、蓮も時々店に顔を出す。
「ねえ、今日も海行くでしょ?」
そう言われて、大和も蓮ももちろんと答える。教室から出て行こうと体の向きを変えた七海が、不意に足を止めて振り向いた。
「そういえば、悠真先輩サーフィンやるってね。もう私が勧めたサーフボード使ってた?」
「は?」
思わず間の抜けた声が蓮の口から洩れた。
「うん。この間、日曜日…かな?コーラルヘブンに寄った。」
コーラルヘブンとは七海の両親のサーフショップ。悠真はここに来る前は海がない土地にいたし、蓮に一度もサーフィンがやりたいだなどと言ったことはなかったので、蓮は何で今更なのだと何故かもやもやした。
「友達が教えてくれるっていうから。」
嬉しそうにそう言う悠真に苛立って、蓮の口調はついきつい物言いになってしまう。
「お前、友達居たのか。」
「ふふ、居たんだ。実は。校内の奴じゃないけど。」
蓮の嫌味に慣れている悠真は軽く流して笑ってそう言った。
「お前、オンラインゲームとかばっかしてるから、なんか意外。」
「そう、オンラインゲームで知り合ったんだ。違う市だから学校で会ったことはなかったんだけど、同い年だって知ってからなんか、話が弾んで楽しくて。」
楽しそうな悠真が蓮は一番嫌いだった。どうにかしてその顔を歪ませたくて、わざと酷い言葉を選んだ。
「どうせ、お前と同じオタクだろ。顔も期待できねえな。」
そう言うと、悠真は珍しく真面目な顔をして蓮にしっかりとした口調で言った。
「颯太 は良い奴だ。俺はそう、確かに蓮に比べたら陰キャかもしれないけど、颯太はサッカーをやってたこともあるし、爽やかだし、凄くモテそうな感じだよ。もしかしたらお前よりモテるかも。」
悠真が人をべた褒めするのを始めて聞いたので、蓮の心は何故かざわめいた。
「は、ねえだろ。仮にそんな奴がいたとして、なんでお前なんかと仲良くなるんだよ。」
「それは…。」
明らかに何かを言うのを飲み込んだ悠真に蓮の苛立ちは募る。
「言いたいことがあるなら言えっていつも言ってんだろ!」
そう言って、蓮が軽く悠真を突き飛ばす。悠真は何も言わなかった。そして、もう蓮と何かを話すのを諦めたように2階に向かった。
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