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激浪

「なんだこりゃ。なんでこうなるんだ?」 蓮の手には所々焦げた目玉焼きのような物体の入ったフライパンがあった。蓮は一度それを置き、スマホを見た。 「うわ、なんでそうなるの?」 いつの間にか隣に居た悠真が蓮の肩口から顔を覗かせてそうからかった。 「…るっせ!さっさと部屋に戻れよ。勉強中だろう?」 そう言うと、悠真はにやにやと笑いながら二つのマグカップを手にして2階に上がった。  悠真も颯太も高3ともなると受験一色。蓮もなんとなく自分だけ遊ぶのは気が引けて、かわりに料理を作ってみたりするようになった。悠真が蓮と暮らすと言ったのは本当だから、それまでにはある程度のことは自分でできるようになろうと思ったのだ。もちろん、勉強もしたし進路もちゃんと決めた。悠真の進路に関わらず蓮も自分の将来のことを優先で大学を選ぶつもりだったが、悠真の選んだ県は他の大学も多数あったので、結局、蓮の行きたい大学もそこにあった。  全てが滞りなく進んでいった。  冬が来て、希望の大学に合格した2人は、春から2人で暮らすのだと喜んでいた。その頃にはもう、蓮もそれに何か言ったり、みじめな嫉妬をしたりしなかった。ただちりりと胸が痛むだけ。 ■■■  2人を見送って1人家に残される形になった蓮は、意外にも寂しさをそれ程には感じていなかった。受験という明確な目標があったし、大和も七海も一緒に勉強をすることが多く、それを感じる暇が無い程に日々は忙しなく過ぎたからだ。しかし、高3になった蓮の元に度々悠真は顔を出した。蓮は自分があんなことを言ったから寂しくないように頻繁にこの家に戻ってくるのだろうと感じていた。悠真の顔を見ることができるのは嬉しかったが、反面辛くもあった。 「流石都会だな。そのTシャツ、ちょっと良いな。」 「ああ、これ?颯太が買ったんだ。俺が着るとちょっとぶかぶかになっちゃうんだけど。蓮の分も買ってこようか?黄色と白と黒…あと青があったかな、どれがいい?」 「あいつとお揃いなんて嫌に決まってんだろ。馬鹿。」 そう言って悠真の鼻を悪戯に摘まむと、悠真は顔を振って、恨めしそうな視線を蓮に向けた。 蓮はそれが微笑ましく、僅かに笑った。それを見て悠真も笑う。  蓮は、颯太の話をされたくなかった。だけど笑う悠真を可愛いと思った。悠真が笑うだけで心に温かい火が灯るようだった。蓮は笑う悠真を見ながら一人感傷にふけっていた。  完敗だ。この気持ちは恋だ。どうにもできない。悠真が笑うと嬉しい。悠真が傍に居ると楽しい。だけど颯太の話をされるだけで簡単に暗い闇に突き落とされる。この気持ちをSNSのメッセージを消すようにタップして削除することができたらどんなにほっとするだろう。こんな恋ならしたくなかった。今年も見たあの花火のようにすぐに消えたっていいからきらきらと綺麗で胸躍るだけの恋がしたかった。もしくは今までの彼女達とのように計算することが出来るくらい余裕のある恋だっていい。もう白旗を振っているのだから、どうか消えてくれ、と。  蓮は全身を突きさすようなこの感情に早めに終わりが来ることを期待していた。

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