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新たな出発2

「改まってどうしたの?」  蒼汰に相談した週の土曜日。唯奈に話しがあると言った。  唯奈は週末なので出かけたかったらしいけれど、俺が真面目な顔で”話しがしたい”というと、コーヒーを淹れてくれて、ソファーに座った。 「あ、友だちと会うって言うのを嫌な顔したっていう話しなら、そんなに頻繁にじゃないのにごめんなさい。私は昼間出かけられるけど、立樹は夜しかないわけだし」 「ああ、その話しじゃないから大丈夫」  離婚を切り出さないといけないのに、どう切り出していいのかわからない。  もう、単刀直入に言うしかないよな。  怒るか泣くかしそうだけど、それは俺の勝手な話しでだから仕方ないよな、と思う。 「あのさ。離婚……して欲しいんだ」 「え?!」  唯奈はなにを言われたのかわからないというふうで言葉を失っていた。  いきなりそんなふうに言われたら当然だろう。 「急になに? 友だちと呑みに行くっていうのを嫌な顔したからじゃなくて? もしそれだとしたら今後気を付けるから。立樹には立樹の時間が必要だものね。それをごめんなさい」 「いや。さっきも言ったけどそんなことじゃないから」 「じゃあなんで? 私に悪いところがあったら言って、直すから」 「唯奈は悪くないよ」 「じゃあ、私以外に好きな人でもできたの?」  まるでその言葉が気持ち悪いとでもいうような顔をして唯奈が言う。  確かにいきなりそんな話しだとしたら、いい気はしないだろう。 「できたと言うか、いた、と言うか」 「なにそれ! 二股かけてたの?」 「それはない。二股はかけてないよ。付き合っていたのは唯奈だけだ」 「でも、気持ちはその人にいってたんでしょう。なら、なんで結婚したのよ!」   当然だけど唯奈は感情的になり、ヒステリックに言い放った。  ほんとに当然だ。俺があのとき、男と付き合うのはハードルが高いなんて思わなければこんなことにならなかったんだ。   「ほんとにごめん。でも、唯奈を好きな気持ちに嘘はないんだ」 「でも、私よりその人の方が好きなんでしょ。こんなに結婚してすぐに離婚したいなんて言うんだもの」 「その人とは結婚できないから」 「結婚できないって不倫? 最低!」  そうか。結婚できない相手っていうと不倫って思うのか、と今さらながらに気づく。  そう思わせておくのもいいのか。それとも相手が男っていうことをはっきり言った方がいいのか迷ったけれど、こうやって逃げてしまうから唯奈と結婚したんだよなと思い、その言葉を否定した。 「不倫じゃなかったらなに? その人に他に彼氏がいたの?」 「いや、それも違う」 「じゃあなんで?」 「相手、男なんだ」  言い切って唯奈の顔を見ると、まるで穢らわしいものでも見るかのような顔で俺を見ていた。  そうだろう。  ずっと付き合っていた彼氏が男が好きだと言うんだから。 「穢らわしい! いつから? まさか最初から隠してたの? ホモだったの?」 「いや、違う。その人と出会うまでは唯奈が一番好きだった。でも、その人に出会って自然に惹かれていったんだ」 「じゃあなんでそのときに言ってくれなかったの? 二股じゃない!」 「唯奈の言う通り、その人のことを好きになった時点で言えば良かったんだと思う。でも、その人と付き合いはしなかったし、付き合う気はなかったから。今も付き合ってはいない」 「その人と付き合ってなくても気持ちの上では二股かけてたのと一緒じゃない」  気持ちの上では二股か。そう言われたらそうだと思う。 「じゃあなに? 改めて付き合うことになったから離婚したいって言うの?」 「いや、その人には先日告白して、結婚してるからってフラレた。それでも黙って唯奈と今後も結婚生活おくるわけにはいかないだろう。それは唯奈に申し訳ないから」  そう言うと唯奈は唇を噛み締めていた。結婚して半年で離婚を言い渡されるなんてそうだろう。  しかも理由が好きな男がいるからなんていう理由だ。  自分でもとんでもないやつだなと思う。  悠にはフラレているんだから、このまま黙って唯奈と結婚生活をおくることもできる。  でも、それはこうやって離婚を口にするよりもズルい酷いやつだと思った。  悠を失う恐怖はそれほど俺には大きなことだった。 「永遠に片想いしてればいいのよ! でも立樹の勝手で離婚するんだから慰謝料は貰うわよ」 「それは当然だよ。唯奈の両親にも頭をさげるよ」 「慰謝料払って、そこまでしても好きなの?」 「ああ。失いたくない。想像するだけで怖いんだ」 「わかった。数日中に出ていくわ。そのときに離婚届も書いて置いておくから」  唯奈は結婚するまで実家暮らしだったから実家に戻るんだろう。 「引っ越し費用は俺が払うよ」 「当たり前でしょう。今夜から寝室は分けましょう。一緒なんて嫌よ」 「わかった」  当然だろう。来週は唯奈の両親に頭をさげに行こうと思った。

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